月影に咲く、一輪の華

夜凪との一日を終えてから――。

星羅と夜凪の間には、明らかに何かが変わっていた。

翌朝。

星羅「夜凪、おはよ」

夜凪「……おはよう」

それだけなら、いつもと変わらない。

けれど。

星羅が通り過ぎようとした瞬間、夜凪が自然に手を伸ばす。

星羅「……?」

夜凪「……こっち」

星羅の手を取って、自分の隣へ引き寄せる。

星羅「ふふっ」

夜凪「……何」

星羅「昨日からちょっと甘えんぼになった?」

夜凪「……違う」

そう言いながら、手は離さない。

それを少し離れた場所から見ていた豹牙が、眉を上げた。

豹牙「……ん?」

來夢「どうした?」

豹牙「いや……」

夜凪を見る。

夜凪はいつもの無表情。

でも、星羅が隣にいる時だけ――ほんの少し表情が柔らかい。

星羅が誰かと話していれば、何となくそちらを見ている。

そして星羅が自分のところへ戻ってくると、安心したように視線を戻す。

來夢「……分かる」

豹牙「だよな?」

朔夜「……雰囲気、変わったね」

黒羽「…………ああ」

星夜も二人を見る。

星夜「……昨日、何かあったんだろうな」

豹牙「聞く?」

來夢「いや」

朔夜「聞かない方がいいと思う」

夜凪「…………」

その会話が聞こえていたのか、夜凪がちらっとこちらを見る。

そして何も言わず、星羅の手を握り直す。

星羅「夜凪?」

夜凪「……何でもない」

星羅「ふふっ」

その様子に、みんなが確信する。

――何かあった。

今までの夜凪なら、絶対に自分からこんなことはしなかった。

女の子と距離を取っていた。

星羅に対してだって、最初は受け入れることすらできなかった。

それなのに今は――。

星羅が自分の隣にいることを、当然みたいに受け入れている。

いや。

むしろ、自分から隣へ呼んでいる。

豹牙「……俺ら、完全に遥愛だけ警戒してたけど」

來夢「うん」

豹牙「……夜凪も結構ヤバくね?」

夜凪「…………」

夜凪がこちらを見る。

豹牙「……聞こえてた?」

夜凪「聞こえてる」

豹牙「だよな」

星羅「何の話?」

來夢「何でもないよ」

星羅「ふーん?」

星羅は不思議そうに首を傾げる。

そして夜凪を見る。

星羅「ねぇ、夜凪」

夜凪「ん?」

星羅「また二人で遊ぼうね」

夜凪「……うん」

その返事だけは、いつもより少し早かった。

星羅「楽しみ!」

夜凪「俺も」

星羅「ふふっ」

二人が顔を見合わせて笑う。

その空気を見て、星夜が小さく息を吐いた。

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「遥愛だけじゃないかもな」

星羅「何が?」

星夜「……何でもない」

星羅は分からないまま笑う。

けれど、月影のメンバーにはもう分かっていた。

これまで夜凪は、ただ静かに星羅を見ていた。

けれど今は違う。

「自分を見てほしい」と、ちゃんと星羅に伝えた。

だから――遥愛だけを警戒していればいい状況では、なくなっていた。