月影に咲く、一輪の華

観覧車を降りた二人は、園内をゆっくり歩いていた。

星羅「次、何乗ろうかなぁ」

遥愛「星羅さんが乗りたいものでいいですよ」

星羅「じゃあ……」

星羅が園内を見回す。

そして、ある建物を見つけた瞬間――。

星羅「あ!」

遥愛「?」

星羅が指差した先には、大きな看板。

『恐怖のお化け屋敷』

星羅「お化け屋敷!」

遥愛「…………」

星羅「行こうよ!」

遥愛「…………」

星羅「はるちゃん?」

遥愛「……別のところにしません?」

星羅「え?」

遥愛「ジェットコースターとか……」

星羅「もう乗ったじゃん」

遥愛「じゃあ観覧車……」

星羅「さっき乗ったよ?」

遥愛「…………」

星羅がじっと遥愛を見る。

星羅「……もしかして」

遥愛「…………」

星羅「お化け屋敷、怖い?」

遥愛「…………」

沈黙。

星羅「ふふっ」

遥愛「……笑わないでください」

星羅「やっぱり!」

遥愛「……苦手です」

星羅「えー! 意外!」

遥愛「そんなに意外ですか?」

星羅「うん!」

遥愛「……俺だって苦手なものくらいあります」

星羅「かわいい♡」

遥愛「…………」

星羅は楽しそうに笑う。

星羅「私、全然平気だよ」

遥愛「本当に?」

星羅「うん!」

遥愛「じゃあ……」

星羅「一緒に行こ?」

遥愛「…………」

星羅が手を差し出す。

星羅「怖かったら、私が守ってあげる」

遥愛「……星羅さんが?」

星羅「そう!」

遥愛「……分かりました」

星羅「やった!」

二人でお化け屋敷の入口へ向かう。

けれど――。

遥愛の足取りは明らかに重い。

星羅「はるちゃん、歩くの遅いよ?」

遥愛「……心の準備をしてます」

星羅「あははっ!」

遥愛「笑わないでくださいって……」

星羅「ごめんごめん」

受付を済ませ、二人で中へ入る。

最初は薄暗いだけだった。

星羅「全然怖くないね」

遥愛「…………」

星羅「はるちゃん?」

遥愛「……大丈夫です」

星羅「ふふっ」

少し進むと――。

突然、横の壁から人形が飛び出してくる。

ガタンッ!!

遥愛「うわっ!」

星羅「きゃっ!」

遥愛が反射的に星羅の腕を掴む。

星羅「…………」

遥愛「…………」

二人とも固まる。

星羅「……はるちゃん」

遥愛「はい……」

星羅「私の腕、すごい掴んでるよ?」

遥愛「…………すみません」

慌てて手を離そうとする。

けれど星羅は笑いながら、その手を握り直した。

星羅「いいよ」

遥愛「……え?」

星羅「怖いなら、ずっと掴んでていいよ♡」

遥愛「…………」

遥愛の顔が赤くなる。

星羅「行こ?」

遥愛「……はい」

二人は手を繋いだまま、さらに奥へ進んでいく。

そして次の角。

星羅「…………」

遥愛「…………」

星羅「……何もいないね」

遥愛「……そうですね」

その瞬間。

ドンッ!!

遥愛「うわぁっ!」

今度は完全に星羅へ抱きついた。

星羅「…………!」

遥愛「……すみません!」

星羅「ふふっ……」

遥愛「笑わないで……」

星羅「だって……」

星羅は嬉しそうに笑う。

星羅「はるちゃん、可愛すぎる♡」

遥愛「…………」

星羅「大丈夫だよ」

星羅は遥愛の背中を優しくぽんぽんする。

星羅「私がいるから」

遥愛「…………」

遥愛はしばらく星羅にくっついたまま、離れられなかった。