月影に咲く、一輪の華


翌日――。

月影と朱雀の倉庫の中間にある、誰もいない場所。

今日は珍しく、月影と朱雀のメンバーが一堂に集まっていた。

もちろん、星羅は知らない。

理由は――。

星羅について話し合うため。

紅蓮「……全員いるな」

豹牙「いる」

來夢「いるよ」

朔夜「うん」

黒羽「…………」

夜凪「いる」

星夜「何でこんな大げさなことになってんだよ」

一方、朱雀側も。

瑛翔「俺もいる」

刹那「…………」

朧「いるよ」

そして――。

遥愛「…………」

遥愛も、なぜかそこに座らされていた。

遥愛「……俺、何で呼ばれたんですか?」

紅蓮「お前が一番知ってるからだろ」

遥愛「……何をですか?」

瑛翔「星羅ちゃんのこと!」

遥愛「…………」

豹牙「昨日、一日中一緒だっただろ」

來夢「海行って」

朔夜「海の家行って」

黒羽「夏祭りも行って」

夜凪「浴衣まで着て」

星夜「……最後、頬にキスまでされたし」

遥愛「…………っ」

遥愛の顔が一気に赤くなる。

瑛翔「ほら!」

紅蓮「お前しか情報持ってねぇだろ」

遥愛「いや……」

遥愛は困ったように俯く。

遥愛「俺、別に何かしようとしてるわけじゃ……」

豹牙「それが一番厄介なんだよ」

遥愛「…………」

豹牙「お前、何もしてねぇのに星羅が勝手に懐いてんだろ」

瑛翔「しかも『はるちゃん♡』だし」

朧「…………」

朧が少しだけ苦笑する。

朧「昨日の写真見たけど……本当に楽しそうだったね」

遥愛「はい」

朧「……それなら、よかった」

その言葉に少しだけ寂しさが混じる。

紅蓮「じゃあ本題」

紅蓮が机を軽く叩いた。

紅蓮「星羅は、遥愛のことをどう思ってる?」

遥愛「…………」

遥愛「……分かりません」

全員「…………」

瑛翔「お前本人だろ!」

遥愛「いや、本当に分からないです!」

遥愛「星羅さんは誰にでも優しいし……俺だけ特別なのかも分からないです」

星夜「…………」

星夜は少し考える。

星夜「いや」

全員が星夜を見る。

星夜「姉ちゃん、誰にでもあんな感じじゃない」

遥愛「……そうなんですか?」

星夜「うん」

星夜「気に入った相手には懐くけど……」

星夜はこの前のことを思い出す。

星羅が遥愛に抱きついて離れなかったこと。

帰り際には、泣きそうになりながら何度も「はるちゃん」と呼んでいたこと。

そして――頬へのキス。

星夜「……遥愛は、かなり特別だと思う」

遥愛「…………」

瑛翔「やっぱりかぁ……」

豹牙「…………」

來夢「強敵だな」

朔夜「うん」

黒羽「…………」

夜凪は黙って遥愛を見る。

夜凪「……でも」

遥愛「?」

夜凪「まだ、決まったわけじゃない」

豹牙「……ああ」

瑛翔「そうだよね」

朧「星羅が誰を好きになるかなんて、まだ分からない」

刹那「…………」

刹那も静かに頷いた。

紅蓮「その通り」

紅蓮は全員を見渡す。

紅蓮「だからこそ――」

豹牙「俺たちも動く」

瑛翔「うん」

來夢「俺も」

朔夜「……俺も」

黒羽「…………」

夜凪「俺も」

朧「……俺も」

刹那「…………ああ」

そして――。

全員の視線が遥愛へ集まる。

遥愛「…………」

遥愛「……俺もですか?」

紅蓮「当然だろ」

遥愛「…………」

遥愛は少し困ったように笑った。

遥愛「俺は……」

少し考えてから。

遥愛「星羅さんと一緒にいるのが楽しいだけです」

その言葉に、何人かが複雑そうな顔をする。

豹牙「……それが一番強ぇんだよ」

遥愛「え?」

豹牙「何でもねぇ」

そして――。

誰も口にはしなかったけれど。

この場にいる全員が同じことを考えていた。

星羅が誰を選ぶのか。

それは、まだ誰にも分からない。

だからこそこの夏休み。

星羅との時間を、誰が一番増やせるのか。

それぞれの戦いが、静かに始まろうとしていた。