月影に咲く、一輪の華

第5章 それぞれの倉庫

一方その頃――。

遥愛が朱雀の倉庫へ戻ると、すでに紅蓮たちが待っていた。

紅蓮「お、帰ってきたか」

瑛翔「どうだった?」

刹那「……楽しかった?」

朧も少し離れたところに座りながら、静かに遥愛へ視線を向けている。

遥愛「はい」

遥愛は少し照れながら笑った。

遥愛「すごく楽しかったです」

瑛翔「やっぱり?」

遥愛「海に行って、そのあと夏祭りにも行きました」

紅蓮「一日中?」

遥愛「はい」

瑛翔「……すげぇな」

刹那「星羅、楽しそうだった?」

遥愛「はい。ずっと笑ってました」

その答えに、朧の表情が少しだけ緩む。

朧「……なら、よかった」

遥愛「それで――」

遥愛がスマホを取り出す。

瑛翔「ん?」

紅蓮「写真とか撮ってないのか?」

遥愛「ああ、撮りましたよ」

瑛翔「見せて!」

遥愛「はい」

遥愛が画面を見せる。

そこに映っていたのは――。

海辺で笑っている星羅。

水着姿で波打ち際ではしゃいでいる星羅。

海の家で焼きそばを食べている星羅。

浴衣姿で屋台を眺めている星羅。

りんご飴を持って嬉しそうに笑っている星羅。

そして、遥愛が不意に撮った横顔。

どの写真も、星羅の自然な表情が綺麗に切り取られていた。

瑛翔「…………」

刹那「…………」

紅蓮「…………」

朧「…………」

四人とも、しばらく黙って写真を見ている。

瑛翔「……なぁ」

遥愛「はい?」

瑛翔「この写真、俺にちょうだい」

遥愛「…………」

瑛翔「全部じゃなくていいから。何枚か」

遥愛は少し考える。

そして――。

遥愛「……ダメです」

瑛翔「えっ」

遥愛「これは、あげません」

瑛翔「なんで!?」

遥愛「……俺が撮ったものなので」

瑛翔「いや、だから欲しいんだけど!」

遥愛「すみません」

きっぱり断られる。

瑛翔「…………」

紅蓮「ははっ」

瑛翔「笑うなよ!」

紅蓮「いや、お前もそこまで欲しがるとは思わなかった」

瑛翔「だって……!」

瑛翔はもう一度画面を見る。

浴衣姿の星羅。

頬を少し赤くしながら笑っている。

瑛翔「……めちゃくちゃ可愛いんだもん」

朧「……確かに」

ぽつりと朧が呟く。

瑛翔「朧もそう思う?」

朧「うん」

朧は写真を見ながら、少しだけ笑った。

朧「全部、星羅らしい顔してる」

刹那「…………」

刹那も一枚の写真をじっと見ていた。

刹那「……これ」

遥愛「それは?」

刹那「浴衣で振り返った時の」

遥愛「はい」

刹那「……可愛い」

紅蓮「お前ら、さっきからそれしか言ってねぇな」

瑛翔「仕方ないだろ」

朧「……本当に可愛いから」

紅蓮「朧まで言うか」

朧「事実だろ」

四人で写真を眺めながら、だんだんと複雑な空気になる。

紅蓮「……しかし」

紅蓮が遥愛を見る。

紅蓮「お前、今日一日ずっと星羅と一緒だったんだよな」

遥愛「はい」

紅蓮「海行って」

遥愛「はい」

紅蓮「夏祭り行って」

遥愛「はい」

紅蓮「浴衣まで着て」

遥愛「……はい」

紅蓮「…………」

紅蓮は大きく息を吐いた。

瑛翔「ずるい……」

刹那「……うん」

朧「…………」

朧も少しだけ寂しそうに写真を見る。

今日、星羅がどれだけ楽しそうだったのか。

写真を見れば分かる。

だからこそ――。

自分も一緒に行きたかった。

遥愛「……また、遊びたいな」

遥愛はスマホを自分の胸元へ戻す。

瑛翔「……やっぱり、その写真一枚だけでも」

遥愛「ダメです」

瑛翔「即答!?」

紅蓮「諦めろ」

瑛翔「くそぉ……」

遥愛は少し申し訳なさそうに笑った。

遥愛「……でも」

瑛翔「?」

遥愛「また星羅さんと遊んだら、もっと撮ります」

瑛翔「…………」

紅蓮「お前、それ余計に煽ってるぞ」

刹那「……そうだな」

朧「…………」

四人の表情が、さらに複雑になる。

遥愛はそんなことには気づかず、スマホをしまった。

その中には――。

今日一日、星羅と過ごした時間が詰まっている。

そしてその写真を、遥愛は誰にも渡すつもりはなかった。

自分だけの大切な思い出として。