月影に咲く、一輪の華

星羅「んーっ! おいしい!」

焼きそばを頬張りながら、星羅は幸せそうに笑っていた。

遥愛「そんなに嬉しそうに食べる人、初めて見ました」

星羅「だって海の家だよ? 絶対食べたかったの!」

遥愛「じゃあ、連れてきてよかったです」

星羅「……はるちゃん、優しい♡」

遥愛「…………」

まただ。

その呼び方にも、♡にも、遥愛はまだ慣れない。

けれど、嬉しくないわけではない。

星羅「はい、これも食べて」

遥愛「え?」

星羅が自分のたこ焼きを一つ取って、遥愛の前へ差し出す。

星羅「あーん」

遥愛「……またですか?」

星羅「嫌?」

遥愛「……嫌じゃないです」

星羅「じゃあ、はい!」

遥愛が少し照れながら口を開く。

星羅「どう?」

遥愛「美味しいです」

星羅「でしょ?」

嬉しそうに笑う星羅。

その少し離れたところでは――。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

星夜「…………」

豹牙「……もう帰るか?」

來夢「いや、まだ早い」

豹牙「何でだよ」

來夢「ここまで来たんだから最後まで見届けようよ」

豹牙「何をだよ……」

朔夜「……あれ」

朔夜が小さく指を差す。

星羅が遥愛の頬についたソースを、指で拭っている。

星羅「ここ、ついてるよ」

遥愛「……ありがとうございます」

星羅「ふふっ」

豹牙「…………」

豹牙は頭を抱えた。

豹牙「……距離感どうなってんだよ」

星夜「姉ちゃん、ああいうの昔からだぞ」

豹牙「いや、知ってるけどよ」

星夜「気に入ったら一直線だから」

豹牙「…………」

その言葉に、全員が黙る。

――一直線。

確かにそうだ。

星羅は誰にでも同じように接するわけではない。

気に入った相手には、遠慮なく懐く。

そして今、その対象が遥愛なのだ。

夜凪「…………」

夜凪は少し離れたところから、静かに星羅を見ていた。

星羅は楽しそうに笑っている。

事件のあと、こんなふうに無邪気に笑えるようになった。

それだけで安心する。

けれど同時に――。

夜凪「……俺たちも、あの顔をもっと見たいな」

ぽつりと呟いた。

豹牙「……ああ」

來夢「うん」

朔夜「……そうだな」

黒羽「…………」

星夜「…………」

その時。

星羅「はるちゃん!」

遥愛「はい?」

星羅「食べ終わったら、また海行こう!」

遥愛「いいですよ」

星羅「今度はもっと沖まで行ってみたい!」

遥愛「大丈夫ですか?」

星羅「はるちゃんが一緒なら大丈夫!」

遥愛「……分かりました。じゃあ一緒に行きましょう」

星羅「やったぁ!」

遥愛の腕にぎゅっと抱きつく。

その瞬間――。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

星夜「…………」

また全員が無言になる。

豹牙「……なぁ」

來夢「うん」

豹牙「俺たち、何しに来たんだっけ?」

星夜「尾行」

豹牙「そうだった」

星羅「はるちゃん、早く行こ!」

遥愛「はいはい」

二人は笑いながら海へ戻っていく。

その後ろ姿を見ながら、星夜が小さく笑った。

星夜「……姉ちゃん、ほんと楽しそう」

豹牙「…………」

その言葉には、誰も反論できなかった。

――だからこそ。

自分たちもいつか、あんな顔をさせたい。

そんな思いだけが、少しずつ強くなっていった。