月影に咲く、一輪の華


月影の倉庫へ戻ってくると、星羅は靴を脱ぐなり、そのままソファーへ向かった。

けれど座る前に、星夜の腕を掴む。

星羅「星夜、こっち来て」

星夜「ん?」

星羅「はるちゃんに連絡しよ」

星夜「……帰ってきたばっかりなのに?」

星羅「だって!」

星羅はスマホを取り出して、嬉しそうに画面を眺める。

星羅「もう夏休みなんだよ?」

星夜「そうだけど」

星羅「ってことは、いっぱい遊べるじゃん!」

星羅の目がきらきらと輝く。

星羅「海行って、水族館行って、買い物して、カフェ行って……」

星夜「まだ増える?」

星羅「遊園地も!」

星夜「…………」

星羅「あと映画も見たいし、一緒にご飯も食べたいし……」

星夜「姉ちゃん、遥愛の予定全部埋める気?」

星羅「うん!」

即答だった。

星夜「……やっぱり」

星羅「だって、せっかく夏休みなんだもん」

そう言って、星羅はスマホを操作する。

星羅「何て送ろうかなぁ」

星夜「普通に『遊ぼう』でいいだろ」

星羅「えー……」

少し考えて。

星羅「『はるちゃん♡夏休みいっぱい遊ぼう!』」

星夜「…………」

星羅「どう?」

星夜「……姉ちゃんらしい」

星羅「じゃあこれ!」

送信。

ピコン。

星羅「ふふっ」

嬉しそうにスマホを握りしめる。

その様子を、少し離れたところで見ていた月影のメンバー。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

誰も何も言わない。

豹牙「……本当に楽しそうだな」

來夢「うん」

朔夜「今日ずっと遥愛の話してる」

黒羽「…………」

夜凪「……それだけ、気に入ったんだろ」

豹牙「分かってる」

豹牙はソファーに座る星羅を見る。

星羅はスマホを握りしめたまま、返事を待っている。

その横には星夜。

豹牙「……でもよ」

來夢「ん?」

豹牙「俺らも、そろそろ星羅と二人で遊びに行きたいよな」

朔夜「……そうだな」

黒羽「俺も思う」

夜凪「…………」

夜凪も何も言わなかったが、否定はしなかった。

星羅「……あ!」

全員が星羅を見る。

星羅「はるちゃんから返事きた!」

星夜「早いな」

星羅は急いで画面を開く。

『俺も夏休み、星羅さんと遊びたいです。予定分かったら連絡します』

星羅「…………!」

一瞬で顔が綻ぶ。

星羅「やったぁ……!」

星夜「よかったじゃん」

星羅「うん!」

星羅は嬉しそうにスマホを胸に抱える。

星羅「夏休み、楽しみだなぁ♡」

その姿を見て――。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

また五人が顔を見合わせる。

豹牙「……まだ夏休み始まったばっかだ」

來夢「うん」

豹牙「俺らにもまだ時間はある」

朔夜「……そうだな」

黒羽「焦る必要はない」

夜凪「…………」

豹牙「……でも」

少し間を置いて。

豹牙「早めに誘った方がいいだろ」

來夢「それは同感」

星羅「星夜、明日どうしよう!」

星夜「何が?」

星羅「はるちゃんと遊ぶなら、どこがいいかな?」

星夜「……もう明日の話?」

星羅「だって楽しみなんだもん!」

星夜「ははっ」

星羅は笑いながら、星夜の肩に頭を預ける。

その姿を見ながら、月影の五人は静かに思った。

――遥愛に出遅れた。

そして今度は、星夜にも負けている。

だからこそ。

次は自分たちの番にしたい。

そんな思いが、少しずつ強くなっていた。