月影に咲く、一輪の華


星羅は相変わらず星夜の腕にくっつきながら、遥愛との次の予定を考えていた。

星羅「海も行きたいし、買い物もしたいし……あ、映画もいいなぁ」

星夜「姉ちゃん、まだ考えてんの?」

星羅「だって、はるちゃんと行きたいところいっぱいあるんだもん」

星夜「……そっか」

そんな会話をしていると、星羅が突然「あっ」と声を上げた。

星夜「どうした?」

星羅「そういえば……」

星羅は少し考える。

星羅「私、怪我してから全然学校行けてなかったよね?」

星夜「うん」

星羅「…………」

少しだけ考えて――。

星羅「もう夏休みじゃない!?」

ぱっと顔が輝いた。

星夜「……あ」

星羅「ってことは!」

星羅は勢いよく星夜の腕を揺さぶる。

星羅「はるちゃん、めっちゃ誘えるじゃん!」

星夜「…………」

星羅「学校ないんだよね!?」

星夜「まぁ……夏休みだからな」

星羅「やったぁ!」

星羅のテンションが一気に跳ね上がる。

星羅「じゃあ明日誘える!」

星夜「早っ」

星羅「明日が無理だったら明後日!」

星夜「……姉ちゃん」

星羅「その次もあるし!」

星夜「予定、埋める気満々じゃん」

星羅「うん!」

即答だった。

少し後ろを歩いていた月影のメンバーにも、その声が聞こえてくる。

來夢「……何か、嫌な予感する」

豹牙「俺も」

來夢「何言ってんだろ」

黒羽「聞けば分かるだろ」

星羅「夏休みなら、はるちゃん毎日誘えるかもしれない!」

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

全員、足が止まりそうになる。

豹牙「……毎日?」

來夢「今、毎日って言った?」

星羅「うん!」

豹牙「グチグチ言ってる場合じゃねぇ!」

朔夜「俺たちより先に、夏休み全部遥愛で埋めるつもりじゃん……」

星羅「海行って、買い物行って、カフェ行って、映画見て……」

指を折りながら数えていく。

星羅「遊園地も行って、水族館も行って……」

星夜「姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「遥愛、夏休み全部暇とは限らないよ」

星羅「…………」

一瞬、固まる。

星羅「……そっか」

少ししゅんとする。

星夜「でも、聞いてみれば?」

星羅「…………!」

また目が輝く。

星羅「そうだね!」

星夜「単純だなぁ」

星羅「だって聞かないと分からないもん!」

星羅はスマホを取り出す。

星夜「今送るの?」

星羅「うん!」

星夜「まだ帰り道だけど」

星羅「だって夏休みだよ?」

星夜「……そうだけど」

星羅「はるちゃんに『夏休みいっぱい遊ぼう♡』って送ろうかな」

星夜「…………」

後ろから聞いていた月影。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

夜凪「…………」

黒羽「……完全に浮かれてんな」

豹牙「夏休み全部持っていかれるぞ」

來夢「俺たちも早く誘わないとまずいね」

朔夜「……夏休み、長いからな」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

その横で、星羅はスマホを握りしめながら、嬉しそうに笑っている。

星羅「ふふっ……」

星夜「そんなに楽しみ?」

星羅「うん!」

星羅「はるちゃんといっぱい遊べるかもしれないんだよ?」

星夜「……そっか」

星羅「楽しみだなぁ♡」

その瞬間――後ろの月影全員の胸に、危機感が走った。

夏休み。

つまり――。

星羅が遥愛を誘える時間が、これからたっぷりある。

豹牙「……本気で急がねぇとな」

星羅「星夜!」

星夜「ん?」

星羅「帰ったら、はるちゃんに送る文章一緒に考えて!」

星夜「俺が?」

星羅「うん!」

星夜「……まぁ、いいけど」

星羅「やったぁ!」

星羅は嬉しそうに星夜の腕へまたぎゅっと抱きついた。

そして――。

その後ろでは月影の男たちが、ひそかに夏休み争奪戦の始まりを悟っていた。