月影に咲く、一輪の華

みんなで朱雀の倉庫を出て、近くを歩くことになった。

星羅「わぁ、今日は天気いいね!」

瑛翔「うん。散歩にはちょうどいい」

星羅「ね、はるちゃん」

遥愛「はい?」

星羅「どこ行ってみたい?」

遥愛「え……俺ですか?」

星羅「うん!」

星羅は当然のように遥愛の手を握ったまま歩いている。

しかも――一度も離す気配がない。

遥愛「……星羅さん」

星羅「ん?」

遥愛「手……」

星羅「嫌?」

遥愛「……嫌じゃないです」

星羅「じゃあ、このままね」

ぎゅっ。

遥愛「…………はい」

顔を赤くした遥愛の横で、星羅は嬉しそうに笑う。

その姿を少し後ろから眺めていた朱雀と月影。

紅蓮「……完全に遥愛しか見えてねぇな」

瑛翔「うん……」

刹那「俺たちがいること、忘れてないか?」

星夜「忘れてはないと思うよ」

朧「……たぶん」

豹牙「たぶんって何だよ」

來夢「さっきから俺たちに話しかけてないよね」

朔夜「……一度もな」

黒羽「ここまでとは……」

夜凪「…………」

夜凪は何も言わず、前を歩く星羅を見ていた。

星羅「はるちゃん、見て!」

遥愛「はい?」

星羅が道端に咲いている小さな花を指差す。

星羅「可愛い」

遥愛「本当ですね」

星羅「はるちゃんみたい」

遥愛「…………え?」

星羅「可愛いところ」

遥愛「……またそれですか」

星羅「だって本当だもん」

遥愛「…………」

遥愛は恥ずかしそうに俯く。

星羅「照れてる?」

遥愛「……照れてません」

星羅「ふふっ」

また笑う。

そして、歩きながら遥愛の手をぶんぶんと小さく振る。

星羅「ねぇ、はるちゃん」

遥愛「はい」

星羅「好きな食べ物は?」

遥愛「急ですね」

星羅「知りたいの」

遥愛「……甘いものです」

星羅「私も!」

遥愛「そうなんですか?」

星羅「うん。じゃあ今度、一緒に食べに行こう」

遥愛「……はい」

星羅「約束ね」

遥愛「はい」

その会話を聞いていた豹牙が、後ろでぼそっと呟く。

豹牙「……何で俺らより先に約束してんだよ」

來夢「ほんとそれ」

瑛翔「俺なんてまだ星羅ちゃんと二人で出かけたことないのに」

紅蓮「お前ら、本人に聞こえるぞ」

星夜「もう聞こえてると思う」

全員「…………」

星羅「ん?」

星羅が振り返る。

星羅「みんな、何か言った?」

豹牙「……何でもねぇ」

星羅「そう?」

そしてまた前を向く。

星羅「はるちゃん、今度は――」

遥愛「はい?」

星羅「一緒に――」

また遥愛との会話に夢中になる。

後ろにいる全員が、揃ってため息をついた。

星夜「……姉ちゃん、本当にロックオンしたな」

朧「…………うん」

そして遥愛は、繋がれた手を見下ろす。

離そうと思えば、いつでも離せる。

けれど――。

星羅があまりにも嬉しそうに握っているから。

遥愛「…………」

自分から離す気には、なれなかった。