月影に咲く、一輪の華

月影「…………」

扉の前に立ったまま、誰一人として動けなかった。

昨日、自分たちが帰る時。

星羅「また明日ねー!」

そう笑って見送ってくれた星羅。

今日も会えると思って、少し楽しみにしながら来た。

――なのに。

星羅「はるちゃん、ほんと可愛いねぇ」

遥愛「……っ」

ぎゅうっ。

星羅は未だに遥愛を抱きしめたまま。

月影の存在なんて、完全に忘れている。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「月影来てるけど」

星羅「うん」

星夜「…………」

星羅「でも、はるちゃん可愛い」

星夜「…………そうですか」

即答だった。

豹牙「…………おい」

星羅「ん?」

豹牙「俺ら、来てるんだけど」

星羅「うん!」

豹牙「…………」

星羅「おはよう、豹牙」

豹牙「……おう!じゃなくて!」

星羅「?」

豹牙「何でそいつから離れねぇんだよ!」

星羅「だって……」

星羅は遥愛を見る。

星羅「可愛いから」

豹牙「…………」

またそれ。

昨日から何度聞いたか分からない。

來夢「星羅ちゃん、俺たちにも挨拶してくれたら嬉しいんだけど……」

星羅「もちろん!」

そう言いながら――。

遥愛を抱きしめたまま。

星羅「來夢、おはよう!」

來夢「……おはよう」

星羅「朔夜も!」

朔夜「ああ」

星羅「黒羽も!」

黒羽「……おはよう」

星羅「夜凪も!」

夜凪「……ああ」

星羅「みんな来てくれて嬉しい!」

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

嬉しいと言っているわりに、一歩も遥愛から離れない。

むしろ――。

星羅「はるちゃん、こっち向いて」

遥愛「……はい」

星羅「なんでこんなに可愛いの」

遥愛「…………」

ぎゅっ。

また抱きしめる。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

全員、目の前でそれを見せられている。

瑛翔「……月影のみんな」

豹牙「何だ」

瑛翔「ごめんね」

豹牙「何が」

瑛翔「たぶん今日、ずっとこれだよ」

豹牙「…………」

紅蓮「はははっ!」

豹牙「笑ってんじゃねぇ!」

紅蓮「いや、面白ぇだろ」

星羅「はるちゃん、手も可愛い」

遥愛「…………」

星羅が遥愛の手を取って、指先を眺める。

星羅「小さいね」

遥愛「……星羅さんの方が小さいです」

星羅「そう?」

遥愛「はい」

星羅「ふふっ」

星羅は嬉しそうに笑い――。

そのまま遥愛の腕に頬を寄せる。

星羅「……可愛い」

遥愛「…………」

顔が真っ赤。

月影「…………」

豹牙「……俺ら、何を見せられてんだ?」

來夢「分からない……」

朔夜「昨日とは別人だな……」

黒羽「……ここまでとは」

夜凪「…………」

夜凪は黙って星羅を見ている。

星羅が自分たちに向けていた笑顔。

それと同じ笑顔を――。

いや。

それ以上に甘い表情を、今は遥愛だけに向けている。

夜凪「…………」

胸の奥が、ほんの少しざわついた。

そして星夜は、そんな月影を見て苦笑する。

星夜「……昨日まで散々、俺が羨ましいって思われてたけど」

豹牙「…………」

星夜「今なら分かるだろ?」

豹牙「……ああ」

星夜「姉ちゃんのデレデレって、結構すごいだろ」

豹牙「…………」

來夢「……すごい」

朔夜「……想像以上だ」

黒羽「……確かにな」

夜凪「…………」

星羅「はるちゃん」

遥愛「はい?」

星羅「今日もずっと一緒にいようね」

遥愛「…………はい」

その瞬間。

豹牙が天井を仰いだ。

豹牙「…………ずるすぎんだろ」

來夢「……同感」

朔夜「……何も言えない」

黒羽「……完全に入り込む隙がないな」

そして――星羅は最後まで。

月影が目の前にいることなど気にせず。

遥愛を抱きしめたまま、幸せそうに笑っていた。