月影に咲く、一輪の華


星羅「はるちゃん、こっち向いて〜」

遥愛「……はい?」

星羅は遥愛の肩に手を置いたまま、顔を覗き込む。

そして――。

星羅「やっぱり可愛い!」

ツン。

遥愛「……っ」

星羅「ふふっ」

今度は反対側の頬を。

ツンツン。

遥愛「星羅さん……」

星羅「ほっぺ柔らかいね」

遥愛「…………」

星羅は楽しそうに笑いながら、今度は遥愛の頭へ手を伸ばす。

優しく、ぽんぽん。

星羅「よしよし」

遥愛「…………」

さらに撫でる。

星羅「はるちゃん、ほんと可愛い〜」

遥愛「……そんなに言われると恥ずかしいです」

星羅「照れてるのも可愛い!」

ぎゅっ。

また抱きしめる。

遥愛「…………」

完全に逃げるタイミングを失っていた。

周囲の下っ端たちも、ただただ呆然としている。

下っ端「…………」

下っ端「……こんな星羅さん、初めて見た」

下っ端「俺も」

下っ端「いつももっと普通なのに……」

そして――。

少し離れた場所で、その光景を見ていた朱雀のメンバー。

瑛翔「…………」

刹那「…………」

紅蓮「…………」

朧「…………」

全員、何とも言えない顔をしている。

瑛翔「……ねぇ」

紅蓮「何だ」

瑛翔「星羅ちゃんって、あんな感じだった?」

紅蓮「…………いや」

刹那「……俺も知らない」

朧「…………」

朧は黙ったまま星羅を見る。

自分と一緒にいる時も、星羅はよく笑っていた。

パンケーキを食べて嬉しそうにしてくれた。

抱きついてもきた。

でも――。

星羅「はるちゃん可愛い〜!」

ぎゅうっ。

星羅「もうちょっと顔見せて?」

遥愛「えっ……」

星羅「かわいい……」

そのデレデレっぷりは、明らかに違った。

朧「…………」

瑛翔「……朧?」

朧「……何でもない」

少しだけ目を逸らす。

紅蓮「ははっ……」

紅蓮は笑っているものの、その目は遥愛をじっと見ている。

紅蓮「……あいつ、完全に気に入られたな」

刹那「…………ああ」

そして星夜。

星夜「…………」

星羅が自分に抱きついてきたり、頭を撫でたり、甘えてきたりすることは、今までにも何度もあった。

けれど――。

星夜「…………」

それは姉弟だから。

星羅にとって、自分が特別なのは当たり前。

だから多少嬉しくても、どこかで割り切れた。

――でも。

星羅「はるちゃん、こっちおいで」

遥愛「はい……」

星羅「よしよし」

遥愛の髪を撫でながら、満面の笑み。

星夜「…………」

星夜の眉が、ほんの少しだけ動く。

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「俺の時よりデレデレじゃね?」

星羅「え?」

星夜「いや、別にいいけど」

星羅「……そう?」

星夜「うん」

そう言いながらも、少しだけ複雑そう。

瑛翔「……星夜でもそう思うんだ」

星夜「だって、今まで俺が一番だったから」

紅蓮「弟だからな」

星夜「そう」

星夜は遥愛を見る。

星羅に抱きしめられて真っ赤になっている。

星夜「だから、姉ちゃんが誰かにこんなデレデレするの初めて見た」

刹那「…………」

朧「…………」

瑛翔「…………」

紅蓮「…………」

四人も黙る。

星羅「はるちゃん」

遥愛「はい?」

星羅「今日、ずっと私のそばにいてね?」

遥愛「…………はい」

星羅「やったぁ!」

またぎゅっと抱きつく。

その姿を見ながら――。

瑛翔「……なんか」

刹那「…………」

瑛翔「ちょっと、ずるくない?」

紅蓮「……分かる」

刹那「…………俺も」

朧「…………」

朧は何も言わなかった。

けれど、その横顔には――。

ほんの少しだけ、複雑な色が浮かんでいた。

星夜も小さく息を吐く。

星夜「……はるちゃん、強敵だな」

誰にも聞こえないように呟いた。

一方、当の星羅は――。

星羅「はるちゃん、可愛い〜!」

まだ遥愛から、まったく離れる気配がなかった。