月影に咲く、一輪の華

星夜「……姉ちゃん、その子から離れろ」

星羅「やだ」

即答だった。

星夜「…………」

瑛翔「…………」

刹那「…………」

紅蓮「…………」

朧「…………」

星羅は遥愛を抱きしめたまま、むしろぎゅっと腕に力を込める。

遥愛「え、あの……」

星羅「はるちゃん、可愛い」

遥愛「…………」

星羅「ねぇ、もう一回名前呼んでいい?」

遥愛「……は、はい」

星羅「はるちゃん!」

遥愛「…………はい」

星羅「可愛い〜!」

遥愛は完全に困り果てている。

周りの下っ端たちも、どうしたらいいのか分からず互いに顔を見合わせていた。

下っ端「……遥愛、頑張れ」

遥愛「何を……?」

星羅「ねぇ、はるちゃん」

遥愛「はい?」

星羅「私のところ来ない?」

遥愛「……え?」

星羅「月影に」

遥愛「…………」

星羅「連れて帰りたい」

星夜「は?」

瑛翔「え?」

紅蓮「おいおい」

刹那「……本気か」

朧「…………」

星羅「だってこんなに可愛い子、初めて見たんだもん」

遥愛「いや、その……俺、朱雀の……」

星羅「うん」

遥愛「…………」

星羅「でも遊びに来てくれたら嬉しい」

遥愛「…………」

星羅は目を輝かせながら遥愛を見る。

星羅「毎日会いたいくらい」

星夜「姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「昨日まで朧に『またパンケーキ食べたい』って言ってたよな?」

星羅「うん」

星夜「朝になったら今度は遥愛かよ」

星羅「だって可愛いんだもん」

星夜「…………」

星夜は深いため息を吐く。

瑛翔「でも、星羅ちゃんがここまで誰かに懐くの珍しいね」

刹那「……確かにな」

紅蓮「しかも一切離す気ねぇぞ」

朧「…………」

朧は遥愛を見つめた。

遥愛「…………」

助けを求めるような目。

朧「……遥愛」

遥愛「!」

朧「諦めた方がいい」

遥愛「えっ」

朧「星羅は、一度気に入ったらしばらく離れないから」

遥愛「そうなんですか?」

朧「……うん」

星羅「じゃあ、はるちゃんずっと一緒だね」

遥愛「…………」

さらに強く抱きしめられる。

遥愛「……星羅さん」

星羅「ん?」

遥愛「……苦しくはないんですけど」

星羅「よかった!」

遥愛「そうじゃなくて……」

星羅「?」

遥愛「俺、このままでいいんでしょうか……」

星羅「いいよ」

遥愛「即答……」

星夜「姉ちゃん、完全にロックオンしてるな」

紅蓮「ははっ」

瑛翔「遥愛、朝から大変だね」

刹那「……だが」

刹那は星羅を見る。

刹那「星羅があんなに嬉しそうなのも久しぶりだ」

その言葉に、誰も何も言わなくなる。

星羅はただ、可愛いものを見つけて嬉しくて仕方がない。

それだけなのだ。

星羅「はるちゃん」

遥愛「はい……」

星羅「今日いっぱい一緒にいようね」

遥愛「…………はい」

星羅「やったぁ!」

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「俺のことも忘れんなよ」

星羅「忘れるわけないでしょ」

星羅は遥愛を抱きしめたまま、空いている手を星夜へ伸ばす。

星夜「……器用だな」

その手を握る。

星羅「星夜も大事。はるちゃんも大事」

星夜「……ならいい」

けれど――。

その横で、朱雀の男たちは全員思っていた。

――新しいライバルが、とんでもない勢いで現れた。

ただし本人の星羅だけは。

そんなことなど、まったく気づいていなかった。