月影に咲く、一輪の華

やがて、奥の部屋から布団を敷き終えた朧たちが戻ってきた。

瑛翔「よし、準備できたよ」

星夜「ありがとう」

星羅「…………」

まだ眠っている。

刹那の肩に寄りかかり、星夜の手を握ったまま、穏やかな寝息を立てている。

朧「……起こす?」

星夜「いや」

星夜は首を横に振った。

星夜「このまま寝かせとこう」

紅蓮「だな」

瑛翔「じゃあ、どうする?」

刹那「…………」

刹那は眠っている星羅を見下ろす。

起こしたくない。

けれど、このままソファーで寝かせるのも、背中の傷を考えればよくない。

刹那「……俺が運ぶ」

星夜「え?」

刹那「部屋まで」

星夜「……できる?」

刹那「できる」

そう言って、刹那がゆっくり身体を動かす。

けれど――。

星羅「……ん……」

服を掴む指に、少しだけ力が入った。

刹那「…………」

星夜「姉ちゃん、離してくれないな」

瑛翔「……これは困ったね」

紅蓮「無理に離したら起きるだろ」

朧「……じゃあ」

朧が静かに近づく。

朧「刹那、そのまま運んで」

刹那「……ああ」

星夜「俺も行く」

二人で星羅を起こさないように身体を支える。

刹那が星羅を抱き上げると――。

星羅「……ん……」

無意識に刹那の胸元へ顔を寄せた。

刹那「…………」

瑛翔「……刹那」

刹那「何だ」

瑛翔「また顔赤いよ」

刹那「……黙れ」

星夜「ははっ」

刹那「星夜、お前も笑うな」

星夜「ごめんごめん」

星羅はそんな三人のやり取りも知らず、すやすやと眠っている。

星夜「……姉ちゃん、今日は本当に楽しかったんだろうな」

朧「……うん」

朧が静かに笑う。

朧「ずっと笑ってた」

星夜「そうだな」

その言葉に、星夜も嬉しそうに笑った。

刹那「…………」

二人の会話を聞きながら、刹那は腕の中の星羅を見る。

今日一日。

星羅はずっと笑っていた。

それが、妙に嬉しかった。

刹那「……また来ればいい」

星夜「ん?」

刹那「……朱雀に」

朧「…………」

瑛翔「…………」

紅蓮「…………」

星夜「……姉ちゃん、喜ぶと思う」

刹那「……そうか」

そして奥の部屋へ向かう。

扉を開けると、そこには星羅用に用意された布団。

刹那はゆっくり星羅を下ろす。

けれど――。

星羅の手は、まだ刹那の服を掴んでいた。

刹那「…………」

星夜「姉ちゃん、相当気に入ったんだな」

刹那「……みたいだな」

星夜「……ありがとう」

刹那「何が?」

星夜「姉ちゃんが安心して寝られるようにしてくれて」

刹那は少しだけ目を伏せる。

刹那「……礼を言われることじゃない」

星夜「でも、ありがとう」

刹那「…………ああ」

その夜星羅は朱雀の倉庫で、初めて安心しきった顔で眠っていた。