月影に咲く、一輪の華

夜が深くなるにつれて、映画の音量も少しずつ小さくなっていった。

星羅「…………」

まだ眠っている。

星夜は床に座ったまま、握ったままの星羅の手を見つめていた。

星夜「……姉ちゃん」

小さく呼んでも、返事はない。

星夜「……よっぽど疲れてたんだな」

朧「うん」

朧は静かに頷く。

瑛翔「今日はしゃべりっぱなしだったしね」

紅蓮「来て早々、走り回ってたしな」

刹那「……怪我人とは思えない」

そう言いながらも、刹那の声には呆れたような優しさが混じっていた。

星羅はそんな会話も知らず、刹那の肩に寄りかかったまま眠っている。

刹那「…………」

星羅の髪が、頬に触れる。

刹那は少しだけ目を伏せた。

――不思議だ。

最初に会った時は、こんなふうに誰かに寄りかかる女だとは思わなかった。

むしろ、自分で何でもできる強い女。

そう思っていた。

でも。

強いだけじゃない。

怖がるし、泣くし、誰かに甘えることもある。

そして今は――。

こんなにも無防備に、自分を信頼して眠っている。

刹那「…………」

胸の奥が、じわっと熱くなる。

紅蓮「……刹那」

刹那「何だ」

紅蓮「嬉しいだろ」

刹那「……うるさい」

瑛翔「でも、さっきより顔柔らかいよ」

刹那「お前ら、本当にうるさいな」

星夜「まぁ、いいじゃん」

星夜が笑う。

星夜「姉ちゃん、安心して寝てるみたいだし」

刹那「…………ああ」

その一言だけは、素直に頷いた。

すると――。

星羅「……ん……」

小さく身体が動く。

刹那「……!」

星羅が少しだけ顔を上げる。

星羅「…………」

まだ目は閉じたまま。

そして、寝ぼけたように刹那の服を指先で掴んだ。

刹那「…………」

星羅「……行かないで……」

その一言に。

刹那の表情が変わった。

星夜「…………」

朧「…………」

瑛翔「…………」

紅蓮「…………」

誰も茶化さなかった。

星羅「……ひとり、やだ……」

刹那「…………」

刹那はしばらく黙っていた。

そして、星羅が安心できるように、静かに答える。

刹那「……行かない」

星羅「…………」

刹那「ここにいる」

その言葉を聞いたからなのか。

星羅の指から、ゆっくり力が抜ける。

そしてまた、刹那の肩に身体を預けた。

星夜「…………」

星夜は少しだけ目を細める。

姉ちゃんは、きっとまだ完全には過去から抜け出せていない。

だからこそ――。

こうやって誰かを頼れるようになったことが、星夜には嬉しかった。

星夜「……姉ちゃん」

小さく呟く。

星夜「よかったな」

誰にも聞こえないくらいの声だった。

その頃、朧は立ち上がった。

朧「……布団、敷いてくる」

瑛翔「俺も手伝う」

紅蓮「俺も行く」

三人が奥へ向かう。

星夜「じゃあ俺も――」

刹那「いい」

星夜「え?」

刹那「星夜はここにいろよ」

星夜「…………」

刹那は星羅を起こさないよう、静かに肩を貸し続けている。

星夜はその姿を見て、少しだけ笑った。

星夜「……じゃあそうする」

刹那「ああ」

そして――。

眠っている星羅のすぐそばには、星夜。

その隣には刹那。

少し離れた場所では、朧たちが寝る準備を始めている。

朱雀の倉庫に、穏やかな夜が流れていた。