月影に咲く、一輪の華

ゲームが始まって、しばらく。

星羅「えっ、ちょっと待って!」

瑛翔「はははっ! 星羅ちゃん、そこ違う!」

星羅「分かってるって!」

星夜「姉ちゃん、右!」

星羅「右ってどっち!?」

星夜「そっちじゃない!」

紅蓮「お前らうるせぇな!」

刹那「……紅蓮も十分うるさい」

紅蓮「んだと?」

星羅「ふふっ、もう!」

倉庫中に笑い声が響く。

さっきまで月影の男たちがいた時とは、また違った賑やかさだった。

星羅「やった!」

星羅が小さくガッツポーズをする。

星夜「お、姉ちゃん勝ったじゃん」

星羅「ね? 弱くないでしょ?」

星夜「今回はな」

星羅「もう!」

星夜の肩を軽く叩く。

その様子を見ていた瑛翔が、思わず笑った。

瑛翔「星羅ちゃんって、こんなに子供っぽいところあるんだね」

星羅「え?」

瑛翔「月影にいる時、もっと大人しくしてるイメージだった」

星羅「そうかな?」

星夜「姉ちゃん、家ではこんな感じだよ」

星羅「家って……」

星夜「俺といる時はもっと酷い」

星羅「酷いって何!」

星夜「だって朝とか――」

星羅「それは言わないで!」

星夜「ははっ」

星羅「もう!」

また笑いが起こる。

朧は少し離れた場所で、その様子を静かに眺めていた。

朧「……楽しそう」

星羅「朧も楽しい?」

朧「うん」

星羅「よかった」

星羅は満足そうに笑う。

その瞬間。

朧の胸の奥が、少しだけ温かくなる。

――また来てほしい。

さっきよりも、強くそう思った。

一方、刹那はそんな朧を横目で見ていた。

刹那「…………」

瑛翔「刹那?」

刹那「何だ」

瑛翔「さっきから朧見てるけど」

刹那「……別に」

瑛翔「ふーん」

刹那「…………」

刹那は視線を星羅へ戻す。

星羅は星夜と何か言い合いながら笑っている。

その笑顔を見ていると――。

刹那「…………」

また、頬をつついた時の感触を思い出した。

自分の頬に触れた、小さな指。

そして――。

星羅「刹那!」

刹那「……ん?」

突然呼ばれて顔を上げる。

星羅「次、刹那の番だよ!」

刹那「……俺か」

星羅「うん!」

コントローラーを渡される。

刹那が受け取ると、星羅が隣へぴったり座った。

星羅「頑張って!」

刹那「…………」

星羅「どうしたの?」

刹那「……近い」

星羅「また?」

刹那「……まただ」

星羅「ふふっ」

刹那「笑うな」

けれど、今度は刹那も離れなかった。

その光景を見た紅蓮が、面白そうに口元を上げる。

紅蓮「……なるほどな」

瑛翔「何?」

紅蓮「刹那も大変だな」

刹那「聞こえてるぞ」

紅蓮「ははっ」

星羅「何が?」

紅蓮「何でもねぇ」

星羅「変なの」

そしてまた、ゲームが始まる。

誰もまだ言葉にはしていない。

けれど――。

今日一晩、星羅と一緒にいられることを。

朱雀の誰もが、少しずつ嬉しく思い始めていた。