月影に咲く、一輪の華

星羅はパンケーキを一口食べると、ふと顔を上げた。

視線の先にいるのは――刹那。

星羅「……あれ?」

刹那「……何だ」

星羅「刹那」

刹那「ん?」

星羅はフォークを置いて、立ち上がる。

そのまま、刹那の前まで歩いていった。

刹那「…………?」

星羅「ちょっと顔見せて」

刹那「は?」

星羅「いいから」

星羅は少し背伸びをして、刹那の顔を覗き込む。

刹那「…………」

距離が近い。

近すぎる。

刹那は一瞬、どうしていいか分からず固まった。

星羅「やっぱり」

刹那「……何がだ」

星羅「前に会った時と、ちょっと雰囲気変わった?」

刹那「…………」

星羅「前はもっと……」

少し思い出すように目を細める。

星羅「ツンってしてた気がする」

刹那「…………」

瑛翔「……あー」

瑛翔が笑いを堪える。

星羅「でも今日、優しい顔してる!」

刹那「そうか?」

星羅「うん!」

嬉しそうに頷く。

星羅「ほら、前はもっと怖い顔してた」

刹那「…………」

星羅「今はなんか、柔らかい」

刹那「…………」

星羅はさらに顔を近づける。

星羅「本当に変わったね」

刹那「……星羅」

星羅「ん?」

刹那「近い」

星羅「え?」

言われて初めて距離に気づく。

星羅「あ、ごめん」

一歩下がろうとした、その時。

星羅「……あ」

刹那「?」

星羅の目が、刹那の頬へ向く。

星羅「ほっぺも綺麗」

刹那「…………」

そして――。

ツン。

刹那「…………」

星羅が指先で頬をつついた。

星羅「ふふっ」

ツンツン。

刹那「…………」

瑛翔「…………ぷっ」

刹那「瑛翔」

瑛翔「はい」

刹那「笑うな」

瑛翔「いや、だって……」

瑛翔は肩を震わせながら笑う。

瑛翔「刹那、めちゃくちゃ固まってる」

刹那「…………」

星羅「嫌だった?」

刹那「……嫌じゃない」

星羅「よかった」

にこっと笑う。

その笑顔を真正面から見てしまい――。

刹那は、ほんの少しだけ目を逸らした。

刹那「……前とは違うだけだ」

星羅「何が?」

刹那「……お前と話すようになったから」

星羅「…………」

刹那「最初は……面倒な奴だと思ってた」

星羅「えぇ!?」

刹那「だが」

一瞬、言葉を止める。

刹那「……思っていたより、ずっと普通だった」

星羅「それ褒めてる?」

刹那「褒めてる」

星羅「ふふっ」

星羅はまた笑った。

その様子を見ていた月影。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

そして星夜。

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「さっきから距離感おかしくね?」

星羅「そう?」

星夜「うん」

星羅「だって仲良くなったんだもん」

星夜「…………」

星夜は少しだけ複雑そうな顔をした。

けれど、刹那の方は――。

自分の頬に残る、星羅の指先の感触を意識していた。

刹那「…………」

――前に会った時とは違う。

確かに、何かが変わっている。

そしてその理由が、星羅自身なのだと。

刹那はまだ、認めたくなかった。