月影に咲く、一輪の華


星羅「じゃあ……夜凪にも甘えていい?」

夜凪「…………」

夜凪はしばらく星羅を見つめていた。

夜凪「……好きにしろ」

星羅「……うん」

星羅は立ち上がる。

そして――。

夜凪の隣へ行くのかと思った。

けれど。

星羅「…………」

夜凪「……?」

星羅は少しだけ迷ったあと、そのまま夜凪の膝へ腰を下ろした。

夜凪「…………」

全員「…………」

倉庫の空気が、完全に止まった。

星夜「…………姉ちゃん?」

星羅「……ん?」

星夜「そこ?」

星羅「うん」

何の疑問もなさそうな顔。

星羅「夜凪なら……いいかなって」

夜凪「…………」

その言葉に、夜凪の喉が小さく動く。

豹牙「…………は?」

來夢「…………え?」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

誰も予想していなかった。

星羅はそんなことなど気にせず、夜凪の胸元へ少し身体を預ける。

星羅「……なんか、落ち着く」

夜凪「…………」

夜凪の手が宙で止まる。

星羅「夜凪?」

夜凪「……何でもない」

星羅「そう?」

夜凪「…………」

しばらく迷ったあと。

夜凪はそっと星羅の腰へ手を回した。

逃げないように。

落ちないように。

そして、もう片方の手で星羅の頭を撫でる。

星羅「……ふふ」

夜凪「…………」

星羅「やっぱり落ち着く」

夜凪「……そうか」

その声は、いつもよりずっと低く、優しかった。

豹牙「…………」

豹牙の眉がピクリと動く。

豹牙「おい、夜凪」

夜凪「何だ」

豹牙「……それ、ずりぃだろ」

夜凪「何が」

豹牙「何がって――」

言いかけて、豹牙は口を閉じる。

星羅が夜凪の膝の上にいる。

それだけなのに、妙に腹が立つ。

來夢「……豹牙」

豹牙「んだよ」

來夢「顔、怖いよ」

豹牙「……うるせぇ」

朔夜も目を逸らす。

朔夜「……星羅」

星羅「ん?」

朔夜「……その、重くないのか?」

星羅「全然」

朔夜「…………そうか」

黒羽はそんな四人を見ながら、静かに息を吐いた。

黒羽「……夜凪」

夜凪「ん?」

黒羽「お前だけ特別扱いされてるな」

夜凪「…………」

星羅「特別?」

黒羽「いや」

夜凪「……別に」

そう答えながらも、夜凪の腕は星羅の腰から離れない。

星羅は安心しきったように、夜凪へ身体を預けている。

星夜「…………」

そんな二人を見ていた星夜が、ぽつり。

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「夜凪のこと、好き?」

星羅「…………え?」

夜凪「……星夜」

星夜「だって」

星夜は不思議そうに首を傾げる。

星夜「俺以外で、姉ちゃんがこんなに安心してくっついてるの初めて見た」

星羅「…………」

夜凪「…………」

倉庫に、また沈黙が落ちた。

星羅は自分が夜凪の膝の上にいることを、改めて意識する。

星羅「…………」

急に恥ずかしくなってきた。

星羅「……あ」

夜凪「どうした?」

星羅「……なんか今になって恥ずかしくなってきた」

夜凪「…………」

星羅「降りてもいい?」

夜凪「…………」

一瞬だけ。

夜凪の腕に力が入った。

夜凪「……別に」

星羅「?」

夜凪「そのままでいい」

星羅「…………」

星羅の頬が、ほんのり赤くなる。

そして――。

誰も気づかないほど小さく。

夜凪の耳も、赤く染まっていた。