月影に咲く、一輪の華

來夢は少し緊張したように笑いながら、自分の肩を軽く叩いた。

來夢「ここ、使っていいよ」

星羅「……いいの?」

來夢「もちろん」

星羅はそっと頭を預ける。

來夢「…………」

一瞬、來夢の身体が固まった。

近い。

思っていたよりずっと近い。

星羅の髪から、ふわっと甘い香りがする。

來夢「……星羅ちゃん」

星羅「ん?」

來夢「……キツくない?」

星羅「全然。むしろ安心する」

來夢「…………そっか」

嬉しい。

その一言だけで、胸がいっぱいになる。

來夢は少し迷ったあと、星羅の頭にそっと手を置いた。

來夢「……じゃあ、少しだけこのままでいよう」

星羅「うん」

その光景を見ていた豹牙が、腕を組む。

豹牙「…………」

さっきまで自分の肩に寄りかかっていた星羅が、今は來夢の隣にいる。

別に。

何も問題ない。

そう思おうとする。

けれど――。

豹牙「……チッ」

星夜「豹牙」

豹牙「んだよ」

星夜「分かりやすい」

豹牙「…………」

星夜「嫉妬してんだろ」

豹牙「してねぇ」

即答だった。

星夜「顔に書いてあるけど」

豹牙「うるせぇ」

そんな二人の会話を聞いていた朔夜が、ふっと笑う。

朔夜「……豹牙」

豹牙「何だよ」

朔夜「俺も少し分かる」

豹牙「…………」

來夢「え?」

朔夜「さっきから、星羅が誰かに甘えるたびに気になる」

星羅「…………」

その言葉に、星羅が少しだけ顔を上げる。

星羅「朔夜も?」

朔夜「……ああ」

星羅「じゃあ……」

星羅が來夢の肩から離れる。

そして朔夜の方へ歩いていく。

朔夜「……!」

星羅「朔夜にも甘えていい?」

朔夜「…………」

一瞬、完全に固まった。

豹牙「おいおい」

來夢「朔夜、頑張れ」

朔夜「……お前ら、うるさい」

それでも、星羅が隣に座ると――。

朔夜は少しだけ身体を寄せた。

星羅が肩に頭を預ける。

朔夜「…………」

星羅「……落ち着く」

朔夜「……そうか」

星羅「うん」

朔夜はぎこちなく、星羅の頭を撫でる。

一度。

そして、もう一度。

星羅「……ふふ」

朔夜「何?」

星羅「優しいなって」

朔夜「…………」

また耳が赤くなる。

來夢「朔夜も顔赤い」

朔夜「……來夢」

來夢「はい」

朔夜「黙って」

その様子を見ていた黒羽は、思わず苦笑した。

黒羽「……お前ら、本当に分かりやすいな」

星羅「?」

星夜「姉ちゃんは気にしなくていいよ」

星羅「何で?」

星夜「……何でもない」

そして――。

残っているのは、黒羽と夜凪。

星羅は二人を見る。

星羅「……次、どっち?」

黒羽「…………」

夜凪「…………」

二人の視線がぶつかる。

黒羽「……夜凪」

夜凪「何だ」

黒羽「お前、さっきから一番我慢してるだろ」

夜凪「…………」

星羅「え?」

夜凪「……別に」

星羅「じゃあ……夜凪にも甘えていい?」

夜凪「…………」

その瞬間だけ。

夜凪の表情が、ほんの少しだけ揺れた。