月影に咲く、一輪の華

豹牙「……おう」

星羅「…………?」

いつもならもっと雑に返ってくるのに。

今日は妙に素っ気ない。

星羅「どうしたの?」

豹牙「別に」

星羅「怒ってる?」

豹牙「怒ってねぇよ」

星羅「じゃあ、疲れた?」

豹牙「……まぁ、ちょっとな」

そう言って、豹牙は持っていた袋をテーブルへ置いた。

どさっ。

星羅「……これ、全部?」

來夢「うん。星羅ちゃんが甘いもの食べたいって言ってたから」

星羅「こんなに?」

朔夜「豹牙が選びすぎた」

豹牙「……うるせぇ」

星羅「ふふっ」

袋を覗き込む。

ケーキにプリン、フルーツ、そして小さなパン。

星羅「ありがとう。すごく嬉しい」

豹牙「…………」

星羅「豹牙?」

豹牙「……何でもねぇ」

視線を逸らす。

けれど耳が少し赤い。

來夢「豹牙、顔赤くない?」

豹牙「赤くねぇ!!」

星羅「ふふふっ」

豹牙「だから笑うなって!」

そのやり取りを見ていた黒羽が、少しだけ笑った。

黒羽「まぁ、星羅が喜んでるならいいだろ」

豹牙「……ああ」

豹牙は小さく答える。

――本当は。

星羅が笑った瞬間、さっきまで感じていた苛立ちなんて全部どうでもよくなっていた。

単純だ。

自分でも笑えるくらい。

星羅「じゃあ、これ食べてもいい?」

豹牙「好きなの食え」

星羅「じゃあ……」

星羅がプリンを手に取る。

來夢「それ好きなんだ?」

星羅「うん。プリン好き」

來夢「へぇ……」

朔夜「覚えておく」

星羅「え?」

朔夜「……何でもない」

來夢「俺も覚えた」

豹牙「お前ら何で覚えるんだよ」

來夢「いいだろ別に」

豹牙「……チッ」

また空気が妙に変わる。

星羅「……?」

本人だけが分かっていない。

そんな中、夜凪が少し離れた場所から口を開いた。

夜凪「星羅」

星羅「ん?」

夜凪「甘いものだけじゃなくて、ちゃんと飯も食え」

星羅「分かってるよ」

夜凪「本当に?」

星羅「本当」

夜凪「ならいい」

星羅「……夜凪も食べる?」

星羅がプリンを差し出す。

夜凪「…………」

夜凪が固まる。

星羅「一個あるよ?」

夜凪「……いや」

星羅「甘いの嫌い?」

夜凪「そういうわけじゃねぇ」

星羅「じゃあ食べる?」

夜凪「…………」

少し迷ったあと。

夜凪「……もらう」

星羅「ふふ。はい」

その瞬間。

豹牙「…………」

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

全員の視線が夜凪へ集まる。

夜凪「……何だよ」

豹牙「……別に」

來夢「何でもない」

朔夜「…………」

星羅「?」

またしても星羅だけが何も分かっていない。

けれど――。

少しずつ。

彼女を中心に、男たちの間に妙な火花が散り始めていた。