月影に咲く、一輪の華

倉庫を出た三人は、少し歩いたところで足を止めた。

來夢「……で」

豹牙「ん?」

來夢「結局、何買う?」

豹牙「だから甘いもんだろ」

朔夜「それだけじゃない」

豹牙「じゃあ何だよ」

朔夜「昨日ほとんど食べてないんだ。腹に優しいものも必要だろ」

來夢「確かに」

豹牙「……お前、意外とちゃんと考えてんのな」

朔夜「意外は余計だ」

來夢が二人を見ながら笑う。

來夢「じゃあ俺、星羅ちゃんが好きそうなの探してくる」

豹牙「お前、分かんの?」

來夢「……これから知るんだよ」

その言葉に、豹牙が一瞬黙る。

豹牙「…………」

自分も同じだった。

星羅のことを知っているつもりで、まだ知らないことが多い。

好きな食べ物。

好きな場所。

苦手なもの。

一人になった時、何を考えているのか。

――もっと知りたい。

そう思った瞬間、豹牙は少しだけ顔をしかめた。

豹牙「……なんか、面倒くせぇな」

來夢「何が?」

豹牙「……何でもねぇ」

三人が店へ入っていく。

その頃、倉庫では――。

星羅「…………」

ソファーに座りながら、窓の外を眺めていた。

事件が終わった。

なのに、胸の奥にはまだ少しだけ落ち着かないものが残っている。

星羅「…………」

自分の手首を見る。

包帯が巻かれている。

昨日、夜凪が巻いてくれたものだ。

星羅「……ありがとう」

誰もいないのに、自然と呟いてしまう。

その時。

黒羽「何が?」

星羅「……わっ」

いつの間にか後ろにいた黒羽に驚く。

星羅「びっくりした……」

黒羽「悪い」

星羅「ううん」

黒羽は星羅の隣に座った。

少しだけ距離を空けて。

黒羽「……眠れたか?」

星羅「うん。結構」

黒羽「そうか」

短い会話。

それだけなのに、妙に心地いい。

星羅「黒羽」

黒羽「ん?」

星羅「昨日……怖かった?」

黒羽「…………」

予想していなかった質問だった。

黒羽「……怖かったよ」

星羅「え?」

黒羽「お前が連れていかれた時」

星羅「…………」

黒羽「何もできなかったからな」

星羅「黒羽のせいじゃないよ」

黒羽「分かってる」

星羅「じゃあ……」

黒羽「でも」

黒羽が星羅を見る。

黒羽「もう二度と、あんな思いはしたくない」

星羅「…………」

黒羽「だから、何かあったら俺にも言え」

星羅「……うん」

黒羽「約束な」

星羅「約束」

星羅が笑う。

黒羽はその笑顔を見つめ――。

ほんの一瞬だけ、視線を逸らした。

黒羽「……その顔」

星羅「ん?」

黒羽「……笑ってる方がいい」

星羅「…………」

星羅の頬が、少し赤くなる。

星羅「……ありがとう」

黒羽「…………」

今度は黒羽の方が何も言えなくなった。

その頃、外では――。

豹牙「……何だよ、これ」

來夢「どうした?」

豹牙が手に持っていた袋を見る。

そこには、星羅が好きそうなものがいくつも入っている。

豹牙「……買いすぎた」

朔夜「お前が一番選んでただろ」

豹牙「…………」

來夢「星羅ちゃん、喜ぶと思うよ」

豹牙「……ならいい」

三人は倉庫へ戻る。

そして――。

扉を開けた瞬間。

豹牙「……っ」

星羅と黒羽が隣に座っている姿が目に入った。

豹牙「…………」

なぜか、胸の奥がざわつく。

來夢も一瞬、足を止めた。

朔夜も黙る。

星羅「おかえり!」

三人「…………」

星羅「……?」

豹牙「……おう」

その返事だけが、妙に素っ気なかった。