月影に咲く、一輪の華

夜も深くなり、倉庫には静かな時間が流れていた。

星羅「……みんな、今日は本当にありがとう」

星羅が改めて頭を下げる。

黒羽「もういいって」

星羅「でも……」

豹牙「何回礼言うんだよ」

星羅「だって……」

豹牙「俺は別に、お前助けたかったから助けただけだし」

そう言って、豹牙はふいっと顔を逸らす。

星羅「……豹牙」

豹牙「何だよ」

星羅「ありがとう」

豹牙「…………」

一瞬だけ耳が赤くなる。

豹牙「……だから、もういいって」

來夢「豹牙、照れてる?」

豹牙「照れてねぇ!!」

來夢「顔赤いけど」

豹牙「うるせぇ!」

星羅「ふふっ」

その笑い声に、倉庫の空気が少し明るくなる。

――事件の前とは、何かが変わった。

みんなが星羅を見る目が、少しだけ違う。

けれど、本人だけはそれに気づいていない。

星羅「じゃあ、私もう寝るね」

立ち上がろうとする。

その瞬間。

夜凪「待て」

星羅「ん?」

夜凪「背中」

星羅「あ……」

夜凪「まだ血が滲んでる」

星羅「大丈夫だよ」

夜凪「またそれか」

星羅「……ごめん」

夜凪「だから謝るな」

夜凪が救急箱を持って立ち上がる。

夜凪「もう一回、包帯巻き直す」

星羅「でも……」

夜凪「座れ」

星羅「……はい」

素直に座る星羅。

夜凪が背中の傷を確認するため、そっと服の端を持ち上げる。

來夢「…………」

朔夜「…………」

黒羽「…………」

三人の視線が、なぜか夜凪へ集まる。

豹牙「…………」

豹牙も無言で見ている。

夜凪「……何だよ」

來夢「いや、別に」

朔夜「何でもない」

黒羽「……早く手当てしてやれ」

夜凪「分かってる」

丁寧に傷へ薬を塗る。

星羅「……っ」

少し痛みに眉を寄せる。

夜凪「痛い?」

星羅「ちょっと」

夜凪「我慢しろ」

星羅「うん」

夜凪の指が、傷に触れないよう慎重に動く。

その様子を見ていた來夢が、ぽつりと呟いた。

來夢「……夜凪って、星羅ちゃんにだけ優しくない?」

夜凪「…………」

星羅「え?」

夜凪「別に」

來夢「いや、絶対そうだろ」

夜凪「うるさい」

星羅「そうなの?」

夜凪「……知らねぇ」

星羅「ふふ」

夜凪「だから笑うな」

また星羅が笑う。

その笑顔を見て――。

來夢は、胸の奥が少しだけ苦しくなった。

自分も。

星羅の隣で、あんなふうに笑わせたい。

そんな気持ちが、初めてはっきり浮かんだ。

來夢「…………」

――あれ?

俺、今……。

星羅「來夢?」

來夢「え?」

星羅「どうしたの? ぼーっとしてる」

來夢「あ、いや……」

慌てて笑う。

來夢「何でもない」

けれど。

その頬は、ほんの少し赤くなっていた。