月影に咲く、一輪の華

その日の夜。

ようやく倉庫の中も落ち着きを取り戻していた。

星羅「……はぁ」

ソファーの背もたれに身体を預ける。

背中の傷はまだ痛む。

それでも、さっきまでの緊張が抜けたせいか、急に眠気が襲ってきた。

星夜「姉ちゃん、眠い?」

星羅「……ちょっとだけ」

星夜「ちょっとじゃねぇ顔してる」

星羅「そんなに?」

星夜「うん」

星羅「じゃあ……少し寝ようかな」

星夜「部屋使えば?」

星羅「でもみんながいるし……」

黒羽「気にするな。今日は休め」

星羅「……ありがとう」

立ち上がろうとした瞬間。

星羅「……っ」

背中に痛みが走る。

身体がふらついた。

夜凪「――危ない」

すぐに夜凪が腕を掴む。

星羅「……ごめん」

夜凪「謝るな」

星羅「でも……」

夜凪「まだ傷が痛むんだろ」

星羅「……うん」

夜凪「なら無理するな」

そのやり取りを見ていた來夢が、ふと口を開いた。

來夢「……星羅ちゃん」

星羅「ん?」

來夢「今日、怖かった?」

星羅「…………」

星羅は少し考えてから、正直に答えた。

星羅「……怖かったよ」

來夢「…………」

星羅「でも」

ゆっくり笑う。

星羅「みんなが来てくれたから」

來夢「……そっか」

その笑顔を見て――。

來夢の胸が、また少しだけ高鳴った。

何だろう。

さっきからずっと。

星羅のことが気になる。

怪我をしているから心配なのか。

それとも――。

來夢「…………」

自分でもまだ分からない。

一方、朔夜はテーブルの上に置かれた救急箱を片付けていた。

ふと、星羅の手首を見る。

包帯。

朔夜「…………」

あの鎖の痕。

それを見た時に感じた怒り。

犯人への怒りだけじゃなかった。

――もっと早く気づいていれば。

そんな後悔まで残っている。

朔夜「……星羅」

星羅「ん?」

朔夜「何かあったら、ちゃんと言え」

星羅「……うん」

朔夜「我慢する必要はない」

星羅「分かった」

朔夜「……絶対だ」

星羅「ふふ。分かったってば」

朔夜は少しだけ目を逸らした。

朔夜「……ならいい」

そして黒羽。

黒羽は少し離れたところで、その様子を静かに見ていた。

星羅が笑う。

來夢が嬉しそうにする。

朔夜が照れたように視線を逸らす。

夜凪は、ずっと星羅のそばにいる。

そして豹牙は――。

豹牙「…………」

腕を組みながら、そんな四人を眺めていた。

豹牙「……お前ら」

來夢「何?」

豹牙「星羅のこと、気にしすぎじゃねぇ?」

一瞬、全員が固まる。

來夢「……え?」

朔夜「…………」

夜凪「…………」

黒羽「…………」

星羅「?」

豹牙「なんか今日、いつもより星羅のこと見てんじゃん」

來夢「そ、そう?」

豹牙「そうだろ」

來夢「別に……怪我してるから心配してるだけ」

朔夜「……同じだ」

夜凪「…………」

豹牙「お前は?」

夜凪「……何が」

豹牙「星羅のこと」

夜凪「…………」

夜凪は少し黙った。

そして――。

夜凪「……放っておけないだけだ」

豹牙「ふーん」

ニヤッと笑う。

豹牙「まぁ、いいけど」

星羅「……何の話?」

豹牙「何でもねぇよ」

星羅「?」

その時。

黒羽が小さく息を吐いた。

黒羽「……お前ら」

全員が黒羽を見る。

黒羽「本人の前で変なこと言うな」

豹牙「ははっ」

來夢「……ごめん」

星羅「?」

まだ何も分かっていない星羅。

その鈍感さに――。

男たちはそれぞれ、少しずつ違う感情を抱き始めていた。