月影に咲く、一輪の華

廃工場を出ると、外にはまだ薄暗い朝の空気が残っていた。

星羅「…………」

一歩踏み出したところで、背中に痛みが走る。

星羅「……っ」

星夜「姉ちゃん!」

すぐに星夜が支える。

星羅「大丈夫、大丈夫」

星夜「だからそれ言うなって」

星羅「……ふふ」

星夜「笑ってる場合じゃねぇだろ」

星羅「ごめん」

星夜「……ほんとにもう」

星夜は呆れたように言いながらも、星羅の身体をしっかり支えていた。

その後ろから、黒羽たちも出てくる。

豹牙「……全員いるな」

來夢「ああ」

朔夜「犯人は?」

黒羽「もう動けない。あとは処理を任せる」

星羅「…………」

振り返る。

もう、あの男の姿は見えない。

それでも胸の奥には、まだあの頃の恐怖が残っていた。

鎖の音。

暗い部屋。

そして、自分の代わりに傷ついた星羅。

星夜「姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「……帰ったら、ちゃんと話して」

星羅「…………」

星夜「昔の傷のこと」

星羅「……」

星夜「俺、知らないままなの嫌だ」

星羅はしばらく黙った。

そして、小さく頷く。

星羅「……分かった」

星夜「約束な」

星羅「うん。約束」

その様子を見ていた豹牙が、少し離れたところで呟く。

豹牙「……これから、大変だな」

來夢「だろうな」

朔夜「過去が終わったからといって、傷まで消えるわけじゃない」

夜凪「…………」

夜凪は星羅を見る。

まだ顔色は悪い。

それでも、星夜の隣では少しだけ安心した顔をしている。

夜凪「……帰ったら、ちゃんと休ませる」

豹牙「お前、完全に保護者じゃん」

夜凪「うるせぇ」

來夢「でも、昨日からずっと星羅のそばにいるよな」

夜凪「…………」

豹牙「図星?」

夜凪「黙れ」

星羅「ふふっ」

夜凪「……星羅まで笑うな」

星羅「ごめん」

久しぶりに、自然な笑い声が響いた。

黒羽はその様子を見て、静かに目を細める。

――終わった。

少なくとも、今は。

そしてこれからは。

星羅が過去に怯えるたび、誰かが隣にいる。

一人で抱え込もうとしたら、誰かが止める。

黒羽「……帰るぞ」

星羅「うん」

みんなが歩き出す。

星羅も星夜に支えられながら、その後ろを歩く。

けれど――。