月影に咲く、一輪の華


その瞬間――。

男「……気に入らないな」

空気が変わった。

男が鍵を握りしめる。

男「昔は、君が俺の言うことを聞いてくれたのに」

紅蓮「……おい」

男「…………?」

紅蓮が一歩前へ出る。

紅蓮「さっきから聞いてりゃ、随分好き勝手言ってくれるじゃねぇか」

男「朱雀の総長……」

紅蓮「星羅が怖がってるのが分からねぇのか?」

男「怖がらせてるんだよ」

瑛翔「……最低」

瑛翔の表情から、いつもの軽さが完全に消えていた。

瑛翔「女の子一人追い回して、昔の傷まで利用して……何が楽しいんだよ」

刹那「……くだらない」

短い言葉だけど、その声には明確な怒りが滲んでいた。

朧「…………」

朧は黙ったまま、男を睨みつける。

その視線だけで、空気が凍る。

男「君たちには関係ない」

黒羽「関係ある」

黒羽が前へ出る。

黒羽「こいつは俺たちの仲間だ」

豹牙「……そういうことだ」

來夢「もう星羅ちゃんに触らせねぇ」

朔夜「逃げ道も、もうない」

男「…………」

男が周囲を見る。

月影。

朱雀。

全員が自分を囲んでいる。

それでも――。

男は笑った。

男「……じゃあ、試してみようか」

鍵を持った手を、ゆっくり星羅へ伸ばす。

夜凪「――触るな」

低い声。

男「…………」

夜凪「その手を星羅に近づけたら――」

夜凪の目が鋭くなる。

夜凪「……ただじゃ済まさない」

男「怖いね」

夜凪「怖がるのは――」

一歩。夜凪が踏み込む。

夜凪「お前の方だ」

その瞬間、男が鍵を放り投げた。

カランッ――。

鍵が床を転がる。

全員の視線が一瞬そちらへ向く。

――その隙を狙って男が星羅へ走った。

星羅「……っ!」

夜凪「星羅!!」

男の手が、星羅へ伸びる。

けれど――ガシッ!!

その腕を掴んだのは紅蓮だった。

紅蓮「……残念だったな」