月影に咲く、一輪の華

山道を抜けた先。

月影と朱雀は、怪しい車が向かったと思われる廃工場へ向かっていた。

黒羽「……あそこだ」

遠くに、古びた建物が見える。

豹牙「……人の気配、あるな」

朔夜「見張りもいる」

瑛翔「結構いるじゃん……」

紅蓮「正面から行くぞ」

黒羽「待て」

紅蓮「ん?」

黒羽「星羅が中にいる。無茶して建物を壊すな」

紅蓮「分かってる」

紅蓮は笑った。

けれど、その目には明らかな怒りが宿っている。

紅蓮「……あいつ、星羅に手ぇ出したからな」

豹牙「……紅蓮」

紅蓮「何?」

豹牙「お前、星羅のこと――」

紅蓮「今はそれどころじゃねぇだろ」

豹牙「……そうだな」

一方。

廃工場の中では――。

星羅「…………ん」

ゆっくりと目を開ける。

視界がぼやける。

身体を起こそうとする。

星羅「……っ」

腹に痛みが走る。

星羅「……ここ……」

周囲を見渡す。

知らない部屋。

そして――。

目の前に、男が立っていた。

男「おはよう、星羅ちゃん」

星羅「…………!」

一瞬で記憶が戻る。

倉庫。

襲撃。

星夜。

そして、自分が連れてこられたこと。

星羅「……星夜は?」

男「…………」

星羅「星夜はどうしたの!?」

男「相変わらずだね」

星羅「答えて!」

男「弟くんの心配ばかり」

男が笑う。

星羅「……星夜に何したの」

男「何もしてないよ」

星羅「…………」

男「でも――」

一歩近づく。

男「君が俺と一緒に来てくれれば、弟くんにももう手を出さない」

星羅「…………」

その言葉に、星羅の表情が固まる。

男「昔もそうだったよね」

星羅「……」

男「君は自分より弟を優先した」

星羅「…………」

男「だから俺は、君が好きなんだよ」

星羅「……やめて」

男「昔からずっと」

星羅「やめて……!」

男「星羅ちゃんは、俺から逃げられない」

星羅「…………」

その瞬間――。

建物の外から。

ドンッ!!

大きな音が響いた。

男「……?」

星羅「…………!」

さらに――。

ガシャァン!!

窓ガラスが割れる。

男「……何だ?」

星羅「…………」

胸が大きく鳴る。

聞こえた。

確かに聞こえた。

遠くから――。

星夜「――星羅ぁぁぁ!!」

星羅「…………!」

涙が一気に溢れる。

星羅「……星夜……!」

男「……もう来たのか」

男が笑う。

星羅「…………」

その瞬間、星羅の目にほんの少しだけ光が戻った。

――来てくれた。

今度は。

誰かが、自分を迎えに来てくれた。