月影に咲く、一輪の華

黒羽「……このままじゃ埒が明かねぇ」

封筒を握りしめたまま、黒羽が低く呟く。

來夢「どうする?」

黒羽「まず、ここを離れる」

星羅「え?」

黒羽「相手が俺たちの居場所を把握してるなら、ここに留まるのは危険だ」

朔夜「確かに。倉庫まで知られているなら、次に何を仕掛けてくるか分からない」

豹牙「じゃあ、別の場所に移るか?」

黒羽「ああ。ただし――」

黒羽は星羅を見る。

黒羽「星羅と星夜は、俺たちから離れない」

星羅「……分かった」

星夜「俺も異論ない」

夜凪「……俺も行く」

豹牙「当たり前だろ」

來夢「全員で動いた方がいい」

星羅はみんなを見渡す。

こんなに大勢に守られるなんて、少し前の自分ならきっと戸惑っていた。

でも今は――。

星羅「……ありがとう」

小さく笑う。

その瞬間。

ブブッ。

また星羅のスマートフォンが震えた。

全員の表情が変わる。

星羅「…………」

恐る恐る画面を見る。

新しいメッセージ。

『どこへ行くの?』

星羅「…………っ」

星羅の顔が強張る。

豹牙「……は?」

來夢「待て」

朔夜「今、俺たちが移動するって話したばかりだぞ」

黒羽「……つまり」

夜凪「近くにいる」

その言葉と同時に、全員が周囲を見回す。

倉庫の中には誰もいない。

窓。

扉。

天井。

どこにも人影はない。

星羅「……どうして」

星羅の手が震える。

星夜「姉ちゃん」

星羅「私たちが何を話してるか……」

黒羽「聞かれてる可能性がある」

夜凪「…………」

夜凪が倉庫内を歩き始める。

壁際。

棚の裏。

窓の周辺。

そして――。

夜凪「……これ」

壁に取り付けられた小さな黒い機械。

豹牙「……何だ?」

夜凪「分からない」

朔夜「まさか……盗聴器?」

星羅「…………」

背筋が凍る。

黒羽が機械を見つめる。

黒羽「……誰かが、ここを監視してた」

星夜「じゃあ……」

星夜の顔が険しくなる。

星夜「俺たちが話してたことも、全部……」

その瞬間。

星羅のスマートフォンがまた震えた。

全員が画面を見る。

『見つけた?』

星羅「…………」

そして、その下にもう一文。

『星羅ちゃんが気づくの、昔から早いね』

――星羅の呼吸が止まった。

あの人しか知らない。

自分のことを、そんなふうに言う人間なんて。

星羅「……やっぱり、あの人だ」

夜凪「…………」

星羅「私たちを……ずっと見てる」

その瞬間。

倉庫の外から――。

カシャ。

シャッターを切るような音がした。

全員が一斉に振り返る。

黒羽「……追うぞ!」

扉が開く。

けれど――。

そこには誰もいなかった。

ただ地面に、一枚の写真が落ちている。

黒羽が拾う。

そして――。

全員が息を呑んだ。

そこに写っていたのは。

今、この倉庫の中で星羅を囲んでいる月影全員の姿だった。

撮られたのは――。

ほんの数分前だった。