月影に咲く、一輪の華

黒い車は、倉庫からゆっくりと離れていく。

その車内。

男は窓の外を眺めながら、手にした写真を指先で撫でていた。

写真に写っているのは――幼い星羅。

鎖に繋がれ、怯えた顔でこちらを見ている姿。

男「…………」

その顔を見つめる目には、異様な執着が滲んでいた。

男「……随分、変わったな」

昔は泣いていた。

怯えていた。

自分から逃げることさえできなかった。

それなのに今は――。

月影の男たちに囲まれ、笑っている。

男「……あの男たちが、邪魔だな」

写真を折りたたむ。

男「でも……」

口元がゆっくりと上がる。

男「今度は、もう逃がさない」

車はそのまま、街の奥へ消えていった。

一方、月影の倉庫。

星羅「……ねぇ」

黒羽「ん?」

星羅「今日……ここに泊まってもいい?」

黒羽「……ああ」

星羅「ありがとう」

いつもなら「大丈夫」と言って帰ろうとする星羅が、自分から残りたいと言った。

それだけで、黒羽には十分だった。

黒羽「今日は全員ここにいる」

豹牙「もちろん」

來夢「俺も残る」

朔夜「ああ」

夜凪「…………」

星羅はみんなを見渡す。

星羅「……ありがとう」

その笑顔は、いつもの星羅と変わらない。

けれど――。

星夜だけは気づいていた。

姉の手が、ほんの少し震えていることに。

星夜「姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「……今日、俺の隣で寝ろよ」

星羅「……うん」

星羅は少しだけ笑って、星夜の隣に座る。

その様子を見ていた豹牙が、ぽつりと呟いた。

豹牙「……あいつ、本当に星羅のこと大事なんだな」

來夢「そりゃ姉ちゃんだからな」

朔夜「……それだけじゃないだろ」

豹牙「?」

朔夜「星夜にとって星羅は――自分が守らなければならない存在でもある」

星夜「…………」

聞こえていた。

星夜は何も言わない。

ただ、星羅の手を握る。

星羅「……星夜?」

星夜「……何でもねぇ」

星羅「ふふ」

その笑顔を見ながら――。

夜凪は、ふと窓の外へ視線を向けた。

夜凪「…………」

何かがおかしい。

昨日から続く視線。

手紙。写真。

そして、さっきの車。

全部が偶然だとは思えない。

夜凪「……黒羽」

黒羽「ん?」

夜凪「今夜は、交代で見張った方がいい」

黒羽「……ああ」

星羅には聞こえないように、二人は視線を交わす。

そして――倉庫の外。

暗闇の中で、一台のバイクが静かに停まった。

エンジンは切られている。

乗っている人物の顔は見えない。

ただ、スマートフォンの画面に表示された一枚の写真。

そこには――眠っている星羅の姿が写っていた。

「次は、もっと近くで見よう」

そう呟いて、男は暗闇へ消えた。