月影に咲く、一輪の華

扉の前に立っていたのは、昨日も会った瑛翔だった。

瑛翔「おはよ」

黒羽「……瑛翔?」

瑛翔「朝から怖い顔すんなって。ちょっと星羅ちゃんに用があって」

黒羽「何の用だ」

瑛翔「まあまあ。本人に話すから」

瑛翔が中へ入る。

すると、星羅が星夜の隣から顔を上げた。

星羅「瑛翔、おはよう」

瑛翔「おはよ、星羅ちゃん」

星羅「どうしたの?」

瑛翔「うん。それなんだけどさ」

いつもの軽い笑みを浮かべながらも、今日は少しだけ真面目な顔をしている。

瑛翔「昨日、紅蓮が星羅ちゃんを連れてきただろ?」

星羅「うん」

瑛翔「あの時、俺らの下っ端の一人がさ。『外でずっと星羅を見てる奴がいた』って言ってたんだよ」

星羅「……え?」

一瞬、空気が止まった。

黒羽「誰だ」

瑛翔「分からないらしい」

來夢「特徴は?」

瑛翔「それもはっきりしない。少し離れたところにいて、ずっと星羅ちゃんを見てたって」

豹牙「……昨日?」

瑛翔「ああ。紅蓮が星羅ちゃんを連れてきた時から、しばらく見てたらしい」

朔夜「朱雀の人間じゃないのか?」

瑛翔「違う。少なくとも、うちの奴らは誰も知らない」

星羅「…………」

胸の奥が、嫌な音を立てる。

昨日。

自分が紅蓮に連れていかれた時。

誰かが――自分を見ていた。

それだけなら、偶然かもしれない。

でも。

今、倉庫に残された写真。

『やっと見つけた』

『今度は、逃がさない』

頭の中で、全部が繋がっていく。

星羅「…………」

星夜「姉ちゃん?」

星羅「……大丈夫」

反射的に笑う。

けれど星夜は、その笑顔を見て何も言わなかった。

瑛翔「俺も最初は、ただの野次馬かなって思ったんだけど」

瑛翔は少しだけ表情を曇らせる。

瑛翔「下っ端が言うには、そいつ……星羅ちゃんが帰るまでずっと見てたらしい」

豹牙「…………気持ち悪ぃな」

來夢「何者だよ」

瑛翔「分からない」

そして瑛翔は、星羅を見る。

瑛翔「ただ……昨日のことだし、伝えといた方がいいと思って」

星羅「……ありがとう、瑛翔」

瑛翔「うん」

星羅は笑った。

星羅「教えてくれて助かった」

瑛翔「…………」

その笑顔を見て、瑛翔は一瞬言葉を失う。

けれど、すぐに真剣な顔に戻った。

瑛翔「星羅ちゃん」

星羅「ん?」

瑛翔「もし何か変なことがあったら、すぐ言って」

星羅「……うん」

瑛翔「月影にも、俺らにも」

黒羽「……朱雀にも?」

瑛翔「ああ」

瑛翔は黒羽を見る。

瑛翔「今回の件、俺らも気になるから」

黒羽「……分かった」

星羅は二人を見ながら、小さく頷いた。

けれど――。

心の奥では、もう分かり始めていた。

昨日の視線も手紙も写真も全部、偶然なんかじゃない。

そしてもし本当に――。

あの人が戻ってきたのなら。

今度こそ、自分だけでは終わらせられない。