月影に咲く、一輪の華

しばらくして、星羅の寝息がまた静かになった。

夜凪はベッドの横から動かない。

普段なら、女と二人きりになることすら避ける。

まして、触れるなんてあり得なかった。

なのに今は――。

さっき自分の腕の中で震えていた星羅の感触が、まだ残っている。

夜凪「…………」

思い出すだけで、胸の奥が妙にざわつく。

その時。

コンコン。

小さく扉が叩かれた。

夜凪「……誰だ」

黒羽「俺だ」

夜凪「……入れ」

扉が開き、黒羽が顔を出す。

黒羽「星羅は?」

夜凪「寝てる」

黒羽「そうか」

黒羽はベッドの星羅を確認してから、夜凪を見る。

黒羽「……悪かったな」

夜凪「何が」

黒羽「任せちまって」

夜凪「別に」

黒羽「……そうか」

短いやり取り。

けれど、黒羽はそのまま出ていかない。

夜凪「……何だよ」

黒羽「いや」

少しだけ迷ってから、口を開く。

黒羽「お前、変わったな」

夜凪「…………」

夜凪は眉を寄せる。

黒羽「前なら、あんなふうに自分から女を抱きしめるなんて絶対しなかっただろ」

夜凪「……必要だっただけだ」

黒羽「そうか」

それ以上追及しない。

ただ、ベッドで眠る星羅を見る。

黒羽「……星羅が安心できたなら、それでいい」

夜凪「…………」

黒羽が扉へ向かう。

その背中に、夜凪が声をかけた。

夜凪「黒羽」

黒羽「ん?」

夜凪「……あの写真」

黒羽「…………」

夜凪「犯人が本当に戻ってきたなら」

一瞬、夜凪の瞳が鋭くなる。

夜凪「俺は、絶対に星羅をあいつのところへ戻さない」

黒羽「……ああ」

黒羽も真剣な顔で頷く。

黒羽「俺たち全員で守る」

扉が閉まる。

再び静寂。

夜凪は眠る星羅を見る。

星羅「…………」

そして、布団の端から出ていた手に気づく。

夜凪は一瞬迷って――。

そっと布団の中へ戻してやる。

その手が離れた瞬間。

星羅「……ん……」

寝ぼけたまま、指先が夜凪の袖を掴んだ。

夜凪「…………」

思わず固まる。

星羅「……行かないで……」

小さな寝言。

夜凪はしばらく黙っていた。

そして――。

夜凪「……行かねぇよ」

掴まれた袖を、そのままにする。

夜凪「今夜は、ここにいる」

眠っている星羅には届いていないはずなのに。

星羅の表情が、ほんの少しだけ穏やかになった。

夜凪はその顔を見つめながら――。

自分の中で、何かが決定的に変わってしまったことを感じていた。