月影に咲く、一輪の華

しばらくして。

個室の中に、微かな寝息だけが響いていた。

夜凪はベッドの横に座ったまま、ずっと星羅を見ている。

すると――。

星羅「…………ん」

まぶたが、ほんの少し動いた。

夜凪「……起きたか?」

星羅「…………」

ゆっくり目を開ける。

ぼんやりした視界に最初に映ったのは――夜凪だった。

星羅「……夜凪?」

夜凪「ああ」

星羅「…………」

そこで、少しずつ記憶が戻ってくる。

写真。

鎖。

あの文字。

そして――自分が取り乱したこと。

星羅「……私」

夜凪「無理に思い出すな」

星羅「…………」

星羅は自分の手を見る。

まだ少し震えていた。

星羅「……ごめん」

夜凪「何で謝る」

星羅「みんなの前で……あんな」

夜凪「謝ることじゃねぇ」

星羅「でも……」

夜凪「怖かったんだろ」

星羅「…………」

その言葉に、星羅の目が揺れる。

夜凪「だったら、怖いって言えばいい」

星羅「……私、怖いって言うの苦手」

夜凪「知ってる」

星羅「……知ってるの?」

夜凪「見てれば分かる」

星羅は少し黙る。

そして――。

星羅「……ねぇ、夜凪」

夜凪「何だ」

星羅「さっき……ありがとう」

夜凪「…………」

星羅「私、星夜のことしか考えられなくなってて……」

夜凪「…………」

星羅「でも、夜凪が抱きしめてくれた時……」

一瞬、言葉を探す。

星羅「……戻ってこれた気がした」

夜凪「…………」

夜凪は何も言わなかった。

けれど、耳がほんの少し赤くなる。

星羅「……夜凪?」

夜凪「……寝ろ」

星羅「え?」

夜凪「まだ顔色悪い」

星羅「でも……」

夜凪「今は休め」

星羅「……うん」

星羅は素直に布団へ戻る。

けれど、少ししてから――。

星羅「夜凪」

夜凪「……何だよ」

星羅「ここにいてくれる?」

夜凪「…………」

一瞬、言葉を失う。

女に触られることすら嫌がる自分が。

今は――。

星羅に「いてほしい」と言われている。

夜凪「……ああ」

短く答える。

星羅「ありがとう」

安心したように目を閉じる。

夜凪はベッドの横に座ったまま、静かに星羅を見つめた。

そして胸の奥で、初めてはっきりと思う。

――こいつを、放っておけない。

ただの仲間でもない。

ただの女でもない。

星羅だから。

そんな感情が、静かに夜凪の中で形を持ち始めていた。