月影に咲く、一輪の華

個室の中。

夜凪はベッドの横に座ったまま、眠っている星羅を見つめていた。

さっきまで激しく震えていた身体は、今はようやく落ち着いている。

星羅「…………」

寝息は静かだった。

けれど、眉間にはまだ少し力が入っている。

夜凪「…………」

夜凪は何も言わず、布団から出ていた星羅の手をそっと中へ戻した。

その時――。

星羅「……っ」

小さく身体が動く。

夜凪「……?」

星羅「……いや……」

寝言。

夜凪の表情が僅かに変わる。

星羅「……星夜……」

夜凪「…………」

まただ。

どれだけ苦しくても、最後に出てくるのは弟の名前。

夜凪は少し黙ってから、低い声で呟いた。

夜凪「……大丈夫だ」

もちろん、眠っている星羅に届くわけではない。

それでも――。

夜凪「星夜は無事だ」

星羅「…………」

少しだけ表情が緩んだ。

夜凪はその変化を見て、目を伏せる。

――守らなきゃ。

あの時も。

そして今日も。

星羅はずっと、自分より誰かを優先している。

その姿が、なぜか放っておけなかった。

夜凪「……馬鹿だな」

小さく呟く。

その時、扉が少しだけ開いた。

星夜「……夜凪」

夜凪「…………」

星夜が中を覗く。

ベッドで眠る星羅を確認して、ほっと息を吐いた。

星夜「……寝てる?」

夜凪「ああ」

星夜「……そっか」

星夜はしばらく姉を見つめる。

そして――。

星夜「……ありがとな」

夜凪「別に」

星夜「俺が何しても止まらなかったのに……」

夜凪「…………」

星夜「夜凪が抱きしめたら、姉ちゃん……安心した」

夜凪「……たまたまだ」

星夜「たまたまじゃねぇよ」

夜凪「…………」

星夜は少しだけ笑った。

星夜「……姉ちゃん、夜凪のこと信用してるんだと思う」

夜凪「…………」

その言葉に、夜凪は返事をしなかった。

けれど――。

眠っている星羅を見つめる目が、ほんの少しだけ柔らかくなった。

星夜「……じゃあ、俺は外にいる」

夜凪「分かった」

扉が閉まる。

一人になった夜凪は、もう一度星羅を見る。

そして、ほんの小さな声で――。

夜凪「……今度は、俺が守る」

その言葉は、誰にも聞かれることなく。

静かな個室の中に消えていった。