月影に咲く、一輪の華

夜凪は意識を失った星羅をそのまま抱き上げた。

誰にも何も言わず、倉庫の奥にある個室へ向かう。

星夜「…………」

その背中を、星夜は黙って見送った。

ガチャ。

扉が閉まる。

――静かになった。

けれど、誰も動かなかった。

さっきまで目の前で起きていたことが、あまりにも衝撃的だった。

豹牙「…………いや」

最初に口を開いたのは豹牙だった。

豹牙「……マジで、何だったんだよ……」

朔夜「…………」

來夢「俺、星羅ちゃんがあんなふうになるなんて……想像もしてなかった」

豹牙「……俺も」

朔夜「俺たちが見てきた星羅とは、まるで別人だったな」

黒羽「…………ああ」

星羅はいつも笑っている。

誰かが困っていれば、自分が傷つくことなんて考えずに助けに行く。

喧嘩になれば、怖がるどころか真っ直ぐ相手を見る。

そんな星羅が。

「嫌」

「星夜を守らなきゃ」

「私が星夜を守る」

泣きながら、何度も繰り返していた。

豹牙「……あんなに泣くんだな」

その声が少し震える。

來夢「星羅ちゃん……」

拳を握る。

豹牙「ずっと、あんなの一人で抱えてたのかよ」

來夢「……そうなんだろうな」

來夢は俯く。

來夢「俺ら、星羅ちゃんのこと強ぇ女だと思ってたけど……」

朔夜「実際、強い」

來夢「……でも、それだけじゃなかったんだな」

朔夜「…………ああ」

強いから平気だったわけじゃない。

怖くても苦しくてもそれを全部抱えたまま、笑っていたのだ。

黒羽「……それにしても」

黒羽が閉じた扉を見る。

黒羽「夜凪があんなふうに動くとはな」

豹牙「……俺も驚いた」

來夢「夜凪、女に触られるの嫌がるだろ」

朔夜「……ああ」

豹牙「なのに、自分から抱きしめた」

全員が黙る。

あの夜凪が。

普段、女が近づくだけでも露骨に嫌そうな顔をする夜凪が。

星羅が錯乱した瞬間、迷いなく抱きしめた。