月影に咲く、一輪の華


そして――。

星夜「……頼む」

腕を緩める。

夜凪はすぐに星羅の身体を自分の方へ引き寄せた。

ぎゅっ。

強く。

逃げられないほどではない。

けれど、今の星羅がどこにも行かなくていいように――。

夜凪「……星羅」

星羅「……嫌……!」

夜凪「大丈夫だ」

星羅「……っ、星夜……!」

夜凪「星夜はいる」

星羅「…………」

夜凪「ここにいる」

それでも星羅の身体は震えている。

夜凪は腕にさらに力を込めた。

夜凪「……もういい」

低く、落ち着いた声。

夜凪「守らなくていい」

星羅「…………」

夜凪「今は……お前が守られる番だ」

その言葉に――。

星羅の呼吸が、一瞬止まった。

星羅「…………え」

少しずつ。

ほんの少しずつ。

現実が戻ってくる。

目の前にいるのは――。

あの日の犯人じゃない。

星夜でもない。

自分を強く抱きしめている――。

星羅「……夜……凪……?」

夜凪「……ああ」

星羅「…………」

その顔を見た瞬間。

張り詰めていた糸が、ぷつりと切れた。

星羅「……よかっ……た……」

そのまま身体から力が抜ける。

夜凪「……星羅!」

ぐったりと倒れ込む星羅を、夜凪が抱き留めた。

星羅は――その腕の中で、静かに意識を失った。

星夜「…………」

ただ呆然と、二人を見つめる。

自分がどれだけ声をかけても止まらなかった姉が。

夜凪の腕の中で、ようやく落ち着いた。

星夜「……夜凪……」

夜凪「…………」

何も答えない。

ただ、眠っている星羅を抱きしめたまま。

その表情だけが――いつもより、ずっと険しかった。