月影に咲く、一輪の華

倉庫に落ちた沈黙は、今までとは全く違っていた。

誰も、すぐには言葉を出せない。

さっきまでなら、星羅のことをからかったり、軽口を叩いたりしていたのに。

今は――誰も笑えなかった。

豹牙「…………待て」

震えるような声。

豹牙「星羅が……?」

星夜「……ああ」

豹牙「鎖に……繋がれてたって?」

星夜「…………」

星夜が黙って頷く。

その瞬間、豹牙の顔から血の気が引いた。

あの星羅が。

いつも笑っていて。

誰かが困っていたら真っ先に手を差し伸べて。

自分が傷ついても平気な顔をしている星羅が――。

幼い頃、鎖に繋がれて、身動きすら取れない状態にされていた。

來夢「……嘘だろ」

來夢が呟く。

來夢「だって……星羅ちゃん、そんな素振り一度も……」

朔夜「…………」

朔夜は何も言えない。

頭の中に、これまでの星羅の姿が次々と浮かんでいた。

旧校舎で鎖を見た瞬間。

顔から血の気が引いたこと。

呼吸ができなくなったこと。

それでも星夜の前では平気な顔をしていたこと。

朔夜「……だから、あの時」

夜凪「…………」

夜凪も思い出していた。

旧校舎で、星羅が自分の背中に張りついてきた時。

振り返った時に見た――あの恐怖に染まった顔。

夜凪「…………」

あれは。

ただ怖かったんじゃない。

過去を思い出していたんだ。

黒羽「……星夜」

低い声。

星夜「……何だ」

黒羽「星羅は……その時、どんな状態だった」

星夜「…………」

星夜はしばらく黙った。

言葉にするだけで、あの日の光景が蘇る。

星夜「……手錠をされて」

全員が息を呑む。

星夜「鎖で壁に繋がれて……身動きが取れないようにされてた」

豹牙「…………」

來夢「…………」

星夜「俺は同じ部屋にいた。でも、俺には鎖はなかった」

握った拳が震える。

星夜「それなのに……俺は怖くて」

星夜「姉ちゃんを助けるどころか……」

一度、目を閉じる。

星夜「『姉ちゃん、助けて』って言った」

倉庫の空気が凍った。

豹牙「……っ」

拳を握りしめる。

豹牙「……それは……きつすぎるだろ」

來夢「星夜……」

星夜「……俺が悪いんだ」

黒羽「違う」

星夜「…………」

黒羽「お前は子供だった」

即座に否定する。

黒羽「そんな状況で何もできなくて当然だ」

星夜「……でも」

黒羽「でもじゃねぇ」

黒羽の声が強くなる。

黒羽「お前が悪いわけじゃない」

星夜「…………」

しばらくして、星夜が小さく頷いた。

そして――。

夜凪「……星羅は」

星夜「……」

夜凪「今も、あの日のことを覚えてるのか」

星夜「……たぶん」

その一言に、全員が黙り込む。

星羅は何も言わなかった。

ずっと隠していた。

笑って。

強がって。

何事もなかったように生きていた。

なのに――。

鎖を見ただけで、あの日に戻ってしまうほどの傷を抱えていた。

豹牙「…………」

豹牙は俯いた。

胸の奥が、ひどく痛い。

もっと早く知っていれば。

もっと早く気づいていれば。

そんな後悔が押し寄せる。