月影に咲く、一輪の華


月影の倉庫へ戻ると、みんなそれぞれいつもの場所に腰を下ろした。

さっきまで朱雀の拠点にいたせいか、見慣れた倉庫が妙に落ち着く。

星羅「……やっぱりここが一番落ち着く」

來夢「そりゃそうだろ。敵のところに連れてかれてたんだから」

星羅「ふふっ」

星夜「……笑ってる場合かよ」

星羅「だって、ちゃんと帰ってこれたし」

星夜「…………」

星夜は何か言いたそうに私を見る。

けれど、結局何も言わなかった。

そんな時だった。

黒羽「……ん?」

黒羽が足元に目を向けた。

星羅「どうしたの?」

黒羽「これ……さっきまであったか?」

床に、小さな黒い金属片が落ちている。

朔夜「……見覚えがないな」

豹牙「誰か落としたんじゃねぇの?」

來夢「でも、ここにこんなの置いてたか?」

夜凪「……俺は見てない」

黒羽が拾い上げる。

星羅「…………」

その瞬間。

なぜか胸の奥がざわついた。

理由は分からない。

ただ、その黒い金属を見ていると――昔の記憶のどこかに触れそうな感覚がした。

星羅「……なんだろう」

星夜「姉ちゃん?」

星羅「ううん……」

私は首を振る。

星羅「何でもない」

黒羽「気になるなら調べる」

星羅「うん」

黒羽が金属片をテーブルの上へ置く。

その横に――。

一枚の紙が落ちていることに気づいた。

來夢「……紙?」

星羅「…………」

來夢が拾おうとする。

けれど、その瞬間。

星羅「待って」

自分でも驚くほど、強い声が出た。

全員が私を見る。

星羅「……私が見る」

來夢「分かった」

私はゆっくり紙を受け取った。

表には何も書かれていない。

裏返す。

――文字があった。

『やっと見つけた』

星羅「…………」

呼吸が止まる。

その文字。

なぜか知っている。

見たことがある。

いつだったかなんて、考える必要もなかった。

指先が震える。

星羅「…………嘘」

隣にいた星夜も、その文字を見た瞬間に固まった。

星夜「…………」

星羅「……星夜」

星夜は答えない。

ただ、紙を見つめている。

二人だけが分かっていた。

これは――。

あの日。

自分たちを閉じ込めた、あの人物の文字かもしれない。

でも。

言えない。

ここにいる誰にも。

あの日のことを知られていないから。

星羅「…………」

星夜「…………」

黒羽「星羅?」

星羅「……ううん」

なんとか笑おうとする。

星羅「何でもないよ」

けれど、その笑顔は明らかに引きつっていた。

星夜も俯いたまま、何も言わない。

そして誰も知らない。

この二人だけが今――。

過去に置き去りにしたはずの恐怖が、再び自分たちの前に現れたことに気づいていた。