月影に咲く、一輪の華


「……誰なんだ」

黒羽が、走り去っていく車を一瞬だけ目で追った。

けれど、もう姿は見えない。

來夢「黒羽?」

黒羽「……いや」

黒羽は視線を戻す。

星羅は何も知らず、星夜と並んで歩いていた。

豹牙「どうした?」

黒羽「……何でもねぇ。行くぞ」

豹牙「おう」

五人は星羅たちの後を追う。

けれど――。

少し先の交差点で、星羅が突然立ち止まった。

星羅「……あれ?」

星夜「どうした?」

星羅「今、誰かに見られてた気がする」

星夜の表情が変わる。

星夜「……どこから?」

星羅「分からない」

周囲を見渡す。

人通りはある。

車も走っている。

けれど、それらしい人物は見当たらない。

星羅「気のせいかな……」

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「今日は俺から離れんな」

星羅「うん」

そのやり取りを聞いていた夜凪が、少しだけ周囲を見る。

夜凪「……気のせいじゃねぇかもしれない」

來夢「え?」

夜凪「さっきから、視線を感じる」

豹牙「……マジかよ」

朔夜「朱雀か?」

黒羽「いや……違う気がする」

黒羽が周囲を見回す。

妙な気配。

けれど、朱雀のような荒々しいものではない。

もっと静かで――。

こちらを観察しているような気配だった。

星羅「……ねぇ」

全員が星羅を見る。

星羅「今日は月影の倉庫に行かない?」

黒羽「……ああ」

星羅「みんなと一緒にいた方が安心するし」

その言葉に、豹牙が少しだけ笑う。

豹牙「珍しく素直だな」

星羅「だって昨日さらわれたばっかりだもん」

豹牙「……それもそうか」

みんなで歩き始める。

その後ろ姿を――。

遠くの建物の陰から、一人の男が見つめていた。

黒いフード。

顔は見えない。

手にはスマートフォン。

男「……月影と一緒に動いてる」

電話の向こうから、低い声が返ってくる。

『それでいい』

男「接触しますか?」

『まだだ』

男「……了解」

通話が切れる。

男はもう一度、星羅の背中を見る。

そして――。

小さく呟いた。

「……やっと見つけた」

その声には、憎しみでも怒りでもない。

むしろ――。

長い間、探し続けていたものをようやく見つけたような執着が滲んでいた。