月影に咲く、一輪の華

月影の倉庫を出て、しばらく歩いたところで。

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「なんでパンケーキ持ってんだよ」

星羅「だって美味しかったんだもん」

星夜「…………」

星夜は呆れたように皿を見る。

星夜「敵のところまで行って、何してんだよ……」

星羅「でも、朧が作ってくれたんだよ?」

星夜「……朧?」

星羅「うん。すごく美味しかった」

星夜「…………」

少しだけ、星夜の眉が寄る。

星羅「どうしたの?」

星夜「……別に」

星羅「?」

星夜はそれ以上何も言わなかった。

ただ、星羅が大事そうに持っているパンケーキを見て――。

ほんの少しだけ、面白くなさそうな顔をした。

星羅「……星夜?」

星夜「何だよ」

星羅「もしかして、朧のパンケーキ食べたかった?」

星夜「……違う」

星羅「ふふっ」

星夜「笑うな」

星羅「だって可愛い」

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「……帰ったら何か作って」

星羅「いいよ!」

即答。

星夜「……甘いの」

星羅「パンケーキ?」

星夜「…………」

少し間を置いて。

星夜「……姉ちゃんが作ったやつ」

星羅「!」

嬉しくなって、星羅の顔がぱっと明るくなる。

星羅「うん。いっぱい作る!」

星夜「……ん」

そのやり取りを少し後ろから見ていた黒羽たちは、思わず顔を見合わせた。

來夢「……なるほどな」

豹牙「何が?」

來夢「星夜、ちょっと嫉妬してねぇ?」

豹牙「……確かに」

朔夜「自分だけの姉でいてほしいんだろうな」

夜凪「…………」

夜凪は二人の背中を見ながら、何も言わない。

ただ――星羅が誰かに向ける優しさを、自分も欲しい。

そんな気持ちが、少しずつ大きくなっていた。

そして豹牙も。

來夢も。

朔夜も。

それぞれが気づき始めていた。

星羅を好きになればなるほど――。

星夜という「一番近くにいる男」が、とてつもなく大きな壁になることに。