月影に咲く、一輪の華


紅蓮に連れられて辿り着いた朱雀の拠点。

扉が開いた瞬間、何人もの男たちが一斉にこちらを見る。

「総長、おかえりなさい」

「……あれ?」

「その子って、昼間の……」

紅蓮「そう。月影の星羅」

星羅「……こんにちは」

敵の拠点だというのに、私はいつものように小さく頭を下げた。

すると、一人の男が面白そうに近づいてくる。

明るい雰囲気で、どこか人懐っこい笑顔。

男「へぇ……近くで見ると、やっぱ可愛いな」

星羅「そう?」

男「うん。俺、女の子褒めるの得意なんだけどさ」

星羅「ふふっ」

男「……何?」

星羅「瑛翔って面白いね」

瑛翔「……俺、まだ名前言ってないんだけど」

星羅「あ」

瑛翔「ははっ。紅蓮から聞いた?」

星羅「うん」

瑛翔「俺は瑛翔。高校二年。朱雀の幹部」

星羅「瑛翔……よろしくね」

瑛翔「よろしく」

瑛翔はにっと笑う。

瑛翔「でもさ、星羅ちゃん」

星羅「ん?」

瑛翔「俺、結構本気で口説いてるからね?」

星羅「……そうなの?」

瑛翔「そうなの」

星羅「ふふっ」

また笑われる。

瑛翔「……あー、なるほど」

紅蓮「何だ?」

瑛翔「いや。これはちょっと厄介かも」

紅蓮「ははっ」

その会話を聞いていた男が、静かに口を開いた。

「……瑛翔」

瑛翔「ん?」

「遊びすぎるな」

瑛翔「刹那、別に遊んでねぇって」

男がこちらを見る。

冷静な目。

無駄な表情はほとんどない。

刹那「……俺は刹那。三年。朱雀の幹部だ」

星羅「刹那……よろしく」

刹那「ああ」

短い返事。

それだけだった。

でも、刹那の視線は一瞬だけ、星羅の表情を探るように動いた。

そして――。

少し離れた場所に、一人の男がいた。

誰とも話さず、壁に背を預けている。

紅蓮「……あいつが朧だ」

星羅「朧……?」

男がゆっくりこちらを向く。

その瞬間、星羅は少しだけ目を見開いた。

大柄でも、威圧的でもない。

むしろ――。

中性的で、息を呑むほど綺麗な顔立ち。

長い睫毛。

整った鼻筋。

静かで感情の読めない瞳。

男とは思えないほど綺麗なのに、その目には近寄りがたい冷たさがあった。

朧「……朧」

星羅「初めまして」

朧「…………」

星羅「よろしくね」

少し微笑む。

朧はしばらく私を見つめたあと、ほんの僅かに目を細めた。

朧「……ああ」

それだけ。

星羅「……」

三人とも、全然違う。

瑛翔は軽くて、人との距離が近い。

刹那は静かで、何を考えているのか分からない。

そして朧は――。

綺麗なのに、どこか近づいてはいけないような空気を纏っている。

紅蓮「どうだ?」

星羅「……うん」

紅蓮「怖ぇ?」

星羅「全然」

紅蓮「ははっ」

紅蓮は楽しそうに笑う。

その横で瑛翔が私を見ながら呟いた。

瑛翔「……本当に怖がらねぇんだな」

刹那「…………」

朧「…………」

星羅はまだ知らない。

この日出会った三人との関係が――。

これから大きく変わっていくことを。