月影に咲く、一輪の華

紅蓮に担がれたまま、私は何度も身体を捩った。

星羅「紅蓮! 本当に下ろして!」

紅蓮「まだ駄目だ」

星羅「なんで!?」

紅蓮「お前が暴れるからだろ」

星羅「誰のせいだと思ってるの!」

紅蓮「ははっ」

まるで楽しんでいる。

その余裕が少し悔しくて、私は頬を膨らませた。

星羅「……もう」

紅蓮「そんな怒んなって」

星羅「怒るよ。いきなり担がれたんだから」

紅蓮「悪かった」

星羅「……本当に?」

紅蓮「ああ」

そう言った直後、紅蓮が足を止めた。

星羅「……?」

ようやく下ろしてくれるのかと思った。

けれど、紅蓮は私を地面に下ろす代わりに、ゆっくり肩から降ろして――そのまま私の腕を掴んだ。

星羅「……紅蓮?」

紅蓮「逃げんなよ」

星羅「逃げないよ」

紅蓮「信用できねぇな」

星羅「ひどい」

思わず睨む。

すると紅蓮は、そんな私の顔を見て笑った。

紅蓮「……やっぱ、その顔もいいな」

星羅「……え?」

紅蓮「昨日から思ってたけど、お前って表情がころころ変わるよな」

星羅「そうかな」

紅蓮「ああ」

紅蓮は私をじっと見る。

敵なのに。

さっきまで乱暴に担いでいたくせに。

今は、不思議なくらい穏やかな目をしていた。

紅蓮「怖ぇ時は、ちゃんと怖ぇ顔する」

星羅「…………」

旧校舎でのことを思い出して、一瞬だけ胸がざわつく。

紅蓮「それでも、誰かを守る時は迷わねぇ」

星羅「……星夜のこと?」

紅蓮「ああ」

紅蓮の目が細くなる。

紅蓮「お前、あの弟を守るためなら本当に何でもするんだな」

星羅「……うん」

迷いなく答える。

星羅「星夜は私の大切な弟だから」

紅蓮「…………」

しばらく何も言わない。

そして、ふっと笑った。

紅蓮「……そういうところが気に入ったんだよ」

星羅「…………」

胸が少しだけ跳ねた。

けれど紅蓮は、それ以上何も言わず歩き始める。

星羅「ねぇ、紅蓮」

紅蓮「ん?」

星羅「どこに連れていくの?」

紅蓮「朱雀の場所」

星羅「……私、帰れる?」

紅蓮「もちろん」

星羅「本当に?」

紅蓮「ああ」

紅蓮が振り返る。

紅蓮「ただし――」

口元に、いつもの余裕のある笑みが浮かんだ。

紅蓮「帰す前に、もう少しお前のこと知りたい」

星羅「…………」

そしてその頃。

月影では――。

黒羽「探すぞ」

星夜「……ああ」

豹牙「絶対見つける」

來夢「紅蓮の行きそうな場所、絞るぞ」

朔夜「急げ」

夜凪「…………」

夜凪は一言も発さず、真っ先に倉庫を出た。

その顔には、いつもの無表情しかない。

けれど――。

誰よりも早く。

星羅を連れ戻すために走り出していた。