月影に咲く、一輪の華

倉庫の中に、しばらく静かな時間が流れた。

星羅「……ねぇ」

來夢「ん?」

星羅「ここって、いつもこんな感じなの?」

來夢「まあな。誰かが喋って、誰かが寝て、誰かが喧嘩してる」

星羅「ふふっ。なんか想像できる」

私はソファから立ち上がって、倉庫の中をゆっくり見て回る。

壁に飾られた月影の旗。

使い込まれたテーブル。

みんながいつも座っている場所。

その一つ一つを眺めていると、少しずつここが好きになっていく気がした。

星羅「……ここ、いいね」

黒羽「そうか?」

星羅「うん。なんか……帰ってきたみたい」

その言葉に、黒羽の目が僅かに動いた。

來夢「……帰ってきた、か」

星羅「?」

來夢「いや。星羅ちゃんがそう言うの、なんか意外だなって」

星羅「そう?」

來夢「ああ」

星羅は少し考えてから、ふっと笑った。

星羅「だって、みんながいるから」

その一言に、來夢の胸が小さく鳴った。

――まただ。

星羅は何気なく言っている。

ただ思ったことを、そのまま口にしているだけ。

なのに。

來夢「……お前さ」

星羅「ん?」

來夢「そういうこと、誰にでも言ってんの?」

星羅「え?」

來夢「『みんながいるから』とか」

星羅「……?」

星羅は本気で分かっていない顔をする。

星羅「だって本当だもん」

來夢「…………」

その笑顔を見ていると、なんだか胸の奥が落ち着かない。

今まで、女の子と話していてこんなことを思ったことなんてなかった。

可愛い。

それだけなら、今までだって何度も思った。

でも星羅は違う。

もっと知りたい。

もっと笑わせたい。

そして――。

自分がその笑顔を見られる特別な存在になりたい。

來夢「……参ったな」

星羅「何が?」

來夢「いや」

來夢は笑って誤魔化す。

來夢「お前といると、調子狂うわ」

星羅「豹牙と同じこと言ってる!」

豹牙「……俺と一緒にすんな」

來夢「お前はもう手遅れだろ」

豹牙「うるせぇ」

星羅「手遅れ?」

二人「…………」

星羅はまた首を傾げる。

その横で、黒羽が小さく笑った。

黒羽「……本当に、何も分かってねぇな」

そして夜凪は、そんな星羅をじっと見ていた。

まだ自分の中に生まれた感情に、名前をつけられないまま。

けれど――。

もう、ただの「気になる女」では済まなくなり始めていた。