月影に咲く、一輪の華

紅蓮が出ていったあと、倉庫には妙な沈黙が残っていた。

星羅「……?」

私はみんなの顔を順番に見る。

星羅「なんでみんな黙ってるの?」

來夢「いや……」

來夢がちらっと星夜を見る。

來夢「星夜が怖ぇ顔してるから」

星羅「星夜?」

隣を見る。

星夜「…………」

確かに。

ものすごく不機嫌そう。

星羅「どうしたの?」

星夜「別に」

星羅「絶対別にじゃない」

星夜「……あいつが気に入ったとか言ってただろ」

星羅「うん」

星夜「……気に入らなくていい」

星羅「なんで?」

星夜「……敵だから」

星羅「でも、ちゃんと名前教えてくれたよ?」

星夜「それだけじゃねぇだろ」

星羅「?」

首を傾げる。

すると、向かいに座っていた豹牙がぼそっと呟いた。

豹牙「……あいつ、また来るだろうな」

星羅「そうかな?」

豹牙「ああ」

黒羽「間違いねぇ」

星羅「そんなに?」

黒羽「お前、気に入られてたからな」

星羅「……でも、私たち敵なんでしょ?」

黒羽「ああ」

星羅「じゃあ、仲良くはできないね」

あっさりと言う。

その言葉に、黒羽が少し笑った。

黒羽「……そういうところだよな」

星羅「何が?」

黒羽「いや」

黒羽は答えなかった。

その隣で、豹牙が私を見る。

星羅「豹牙?」

豹牙「……何でもねぇ」

星羅「今日ずっと変だよ?」

豹牙「お前が無自覚すぎんだよ」

星羅「?」

意味が分からず首を傾げる。

すると、琉生が小さく笑った。

琉生「星羅さんは、そのままでいいと思いますよ」

星羅「ほんと?」

琉生「はい」

星羅「じゃあ、そのままでいる!」

にっこり笑う。

その瞬間――。

豹牙がまた顔を赤くした。

來夢「……また赤くなってるぞ」

豹牙「うるせぇ!」

星羅「ふふっ」

笑い声が倉庫に響く。

少し離れたところでは、夜凪が黙ってその様子を見ていた。

そして、ふと呟く。

夜凪「……紅蓮だけじゃねぇだろ」

黒羽「……?」

夜凪「星羅を気にしてんの」

全員が一瞬、黙る。

豹牙「…………」

琉生「…………」

來夢「……お前、急に何言ってんだよ」

夜凪「事実だろ」

そう言って、夜凪は視線を逸らす。

けれど――。

自分自身の胸の奥にも、最近感じたことのない感情があることには、まだ気づいていなかった。

そしてその頃。

倉庫から少し離れた場所を歩く紅蓮は、ポケットに手を入れながら一人で笑っていた。

紅蓮「……星羅、か」

今日見た笑顔。

弟を守るために見せた殺気。

そして、何も知らないような無邪気な表情。

紅蓮「……もっと知りてぇな」

まだ恋だとは思わない。

ただ――。

もう一度、あの女に会いたい。

その気持ちだけは、はっきりしていた。