月影に咲く、一輪の華

星羅「……!」

旧校舎で戦った、朱雀の男。

紅蓮だった。

紅蓮は倉庫の中を見渡し、余裕のある笑みを浮かべる。

黒羽「……朱雀の総長が、わざわざ月影の倉庫まで何の用だ」

紅蓮「そんな警戒すんなよ」

星夜「用件だけ言え」

紅蓮「そう急かすなって」

紅蓮はそう言いながら、私を見る。

その目が合った瞬間、昼間の戦いを思い出したように笑った。

紅蓮「……やっぱりいたか」

星羅「うん」

紅蓮「ちょうどいい」

星羅「何が?」

紅蓮「昼間、ちゃんと名乗る暇なかっただろ」

そう言って、紅蓮は私の方へ向き直る。

紅蓮「俺は紅蓮。高校三年。朱雀の総長だ」

星羅「……紅蓮」

名前を口にすると、紅蓮が満足そうに笑った。

紅蓮「ああ。覚えとけ」

星羅「分かった」

紅蓮「今日、お前を見て気に入ったんだよ」

星夜「…………」

星夜の顔が一気に険しくなる。

星羅「私を?」

紅蓮「そう」

紅蓮「敵を前にしても怯まねぇ。しかも、自分がどうなるかより弟を守ることしか考えてねぇ」

昼間の光景が蘇る。

星夜の前に立った私。

殺気を剥き出しにした私。

紅蓮「……あんな女、初めて見た」

星羅「……」

紅蓮「だから、もう一回会いたくなった」

豹牙「……おい」

紅蓮「何だ?」

豹牙「星羅に近づきすぎだろ」

紅蓮が豹牙を見る。

そして、ニヤッと笑った。

紅蓮「お前も気に入ってんのか?」

豹牙「…………」

豹牙の耳が一気に赤くなる。

來夢「……図星だな」

豹牙「うるせぇ!」

星羅「ふふっ」

思わず笑ってしまう。

その笑顔を見た紅蓮が、一瞬だけ黙った。

紅蓮「…………」

そして、小さく笑う。

紅蓮「……なるほどな」

黒羽「何がだ」

紅蓮「いや」

紅蓮は扉へ向かう。

紅蓮「また来るわ」

星夜「来なくていい」

紅蓮「そう言うなって」

振り返り、星羅を見る。

紅蓮「じゃあな、星羅」

星羅「うん。またね、紅蓮」

紅蓮「……ああ」

扉が閉まる。

静かになった倉庫で、來夢がぽつりと呟いた。

來夢「……あいつ、絶対また来るな」

黒羽「だろうな」

星夜「……来させねぇ」

星羅「?」

私は意味が分からず、首を傾げた。

ただ――。

この日、朱雀の総長・紅蓮の中で。

「面白い女」だった星羅は、確かに少しずつ――特別な存在へ変わり始めていた。