月影に咲く、一輪の華


屋上に戻ってきた私は、星夜の隣に座っていた。

さっきよりは落ち着いた。

けれど、胸の奥にはまだ重たいものが残っている。

星羅「……」

星夜「姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「今日はもう帰るか?」

星羅「……ううん」

少し考えてから首を横に振る。

星羅「もう少し、みんなといたい」

星夜「……そうか」

星夜はそれ以上何も言わなかった。

ただ、私の隣にいてくれる。

黒羽「……なら、倉庫来るか?」

星羅「倉庫?」

黒羽「ああ。月影の倉庫」

星羅「……行ってもいいの?」

黒羽「もちろん」

來夢「星羅ちゃん、まだ本調子じゃなさそうだけど」

星羅「うん……」

私は自分の胸元に手を当てる。

まだ少しだけ苦しい。

でも、ここに一人で残るより、みんなと一緒にいた方がいい気がした。

星羅「みんなと一緒なら大丈夫」

星夜「……無理だけはすんなよ」

星羅「分かってる」

立ち上がる。

その瞬間、少しだけ足元がふらついた。

星夜「……っ」

すぐに腕を支えられる。

星羅「ごめん」

星夜「謝んな」

そのやり取りを見ていた黒羽が、ふっと息を吐く。

黒羽「じゃあ決まりだな」

豹牙「おう」

琉生「星羅さん、ゆっくりで大丈夫ですよ」

星羅「ありがとう、琉生」

夜凪は少し離れた場所にいた。

何も言わない。

でも、私が立ち上がったことを確認してから歩き出した。

そして、みんなで屋上を出る。

校門を出て、少し歩いたところで、黒羽が先頭から振り返った。

黒羽「もう少しだからな」

星羅「うん」

まだ身体には、さっきの恐怖が残っている。

それでも。

一人じゃない。

星夜がいる。

黒羽も、來夢も、豹牙も、朔夜も、琉生も、夜凪もいる。

その事実だけで、少しずつ呼吸が楽になっていく。

やがて――。

古びた建物が見えてきた。

黒羽「ここだ」

星羅「……ここが?」

月影の倉庫。

扉が開かれる。

その先に広がっていたのは、学校とはまるで違う空間だった。

ソファ。

テーブル。

バイク用品。

壁には大きく――。

『月影』

の文字。

星羅「…………」

私はしばらく、その文字を見つめていた。

そして小さく息を吐く。

星羅「……なんか、落ち着く」

黒羽「そうか?」

星羅「うん」

さっきまでの恐怖が、ほんの少し遠くなった気がした。

星夜「……なら、よかった」

その声に振り返る。

星夜が笑っていた。

私も、ようやく少しだけ笑い返した。