月影に咲く、一輪の華

星夜「…………」

屋上の扉を開けたまま、星夜は動かなかった。

視線の先にいるのは――夜凪。

そして、その腕の中にいる星羅。

星夜「……姉ちゃん」

小さく名前を呼ぶ。

その声に、星羅が顔を上げた。

星羅「……星夜?」

目が合った瞬間、私は慌てて夜凪から離れる。

星羅「星夜!?」

立ち上がろうとするけれど、まだ足に力が入らない。

ふらっ。

星夜「……!」

星夜がすぐに駆け寄って、私の身体を支える。

星羅「ごめん……」

星夜「謝んな」

星羅「でも……」

星夜「……顔、まだ真っ青だぞ」

星羅「……」

星夜は私の顔を覗き込む。

その目には心配が滲んでいた。

星夜「何があった?」

私は答えようとする。

でも、その前に夜凪が口を開いた。

夜凪「旧校舎で鎖を見てから、様子がおかしかった」

星夜「…………」

夜凪「屋上に来てから、過呼吸になった」

星夜の表情が固まる。

星羅「……夜凪」

夜凪「言った方がいいだろ」

星夜「……ああ」

星夜は何も言わず、私を抱き寄せた。

ぎゅっと。いつもより強く。

星羅「……星夜?」

星夜「……怖かったんだろ」

星羅「……うん」

星夜「なのに、俺の前では平気な顔してたのか」

星羅「…………」

何も言えない。

星夜「……姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「俺の前でまで、無理すんな」

その声が少し震えていた。

星羅「……でも」

星夜「俺だって……」

星夜は一度、言葉を飲み込む。

星夜「……姉ちゃんがあんな顔してるの見るの、もう嫌なんだよ」

その言葉に、胸が締めつけられた。

私は星夜の背中に腕を回す。

星羅「……ごめん」

星夜「だから謝んなって」

星羅「……うん」

少し離れたところで、夜凪は黙って二人を見ていた。

そして、ふと視線を逸らす。

夜凪「……俺、戻る」

星羅「え?」

夜凪「みんなのところ」

星羅「……ありがとう、夜凪」

夜凪「……ああ」

扉へ向かう。

けれど、その直前。

夜凪「……星羅」

星羅「ん?」

夜凪「無理すんな」

星羅「……うん」

夜凪はそれだけ言って、屋上を出ていった。

残された星夜は、しばらく扉を見つめていた。

星夜「…………」

星羅「星夜?」

星夜「……なんでもねぇ」

そう言いながら、星夜は私の頭を優しく撫でる。

でも、その目の奥には――。

夜凪に抱きしめられていたことへの、ほんの少しの戸惑いが浮かんでいた。