「おばあちゃーん!」
玄関に入ると、お煎餅とお線香が混ざったような、いつもの安心する香りがした。
奥の和室から「はあい」と応える声がして、そちらへ向かう。
「あらっ。いい色じゃない」
祖母が、私が脇に大切に抱えている浴衣へ目を向け、言った。
「でしょっ? 一目惚れして買ったんだ」
白い生地に、薄紫と黄の牡丹が描かれているものだ。
「じゃあ、この部屋でやりましょ」
「うん! お願いしまーすっ」
そう言って、浴衣を広げ始める。
今日は、待ちに待った夏祭りの日。
着付けてもらうため、近所にある祖母の家へ来たのだ。
祖父は数年前に亡くなっていて、祖母がひとりで住んでいる。



