タイプじゃないと言われたので、好きな子ができるまで恋人にしてもらいました。

 ◇

 東京の、小さなライブハウス。
 入口でチケットを見せ、薄暗い通路を抜けていく。

「おー……っ!」

 思わず、声が漏れた。

 まだ開演前。
 ざわめく客席の向こうに、淡いスポットライトに照らされたステージがある。

「こんな近くで見られるんだ。すごいね?」

「うん……」

 藤沢の言う通り、信じられないくらい近い。

 俺が好きなこのバンドは、一昔前にかなり流行った。
 今でも知名度は高いし、固定ファンも多い。

 今回は、本人たちが『初心に還りたい』という理由で、あえてこの小さな会場を選んだらしい。

 当然、チケットは争奪戦。
 俺自身も申し込んで、普通に落ちた。

 まさか兄が当てて、譲ってくれるとは。

 改めて感謝しながら、席へ向かう前にドリンクを買うことにする。
 カウンターの周辺には、人がぎっしり集まっていた。

 藤沢は潰されてしまうかもしれないと思い、俺が二人分買ってくることにした。