お兄さんは「じゃ、ごゆっくり」と笑いながら、ドアを閉めた。
しばらく手元を眺めていた、慎之介は。
ふと、私を見た。
「俺の好きなバンドの、ライブなんだけど」
「うん」
「一緒に……行ってくれない?」
「……えっ?」
私たちは、一度も外でデートらしいデートをしたことがない。
理由は単純に、誰かに見られるかもしれないから。
一緒に過ごせるだけで、十分。
ずっと、そう思うようにしていた。
なのに、今。
こんなにも、嬉しい。
何より。
彼の好きなものに、私を誘ってくれた。
胸の奥に溜まっていたものが、ほんの少しだけ解ける。
「……うん。行く」
小さく、返事をした。
慎之介も、少しだけ安心したように笑った。



