文化祭から数日が経った、ある朝。
「ひな子」
玄関でローファーを履いていると、背後から呼ばれた。
父だ。
半分だけ、振り返る。
「……なに?」
「文化祭、行けなくてごめんな」
「いーよ、別に。仕事だったんでしょ?」
「ダンス、動画とか残ってる?」
「うん」
「今度、観せてな」
「…………」
目を合わせないまま、バッグを肩にかける。
「……いってきます」
そのまま、玄関を出た。
父は、わりと優しい。
小さい頃は、ずっと仲が良かった。
だけど。
母から『フリン』のことを聞いて以来、目を見られなくなった。
あの思い出の頃も、裏では誰かと会っていたのかな、とか。
その人といるとき、私や母の顔は、浮かばなかったのかな、とか。
どうしても、そういうことが頭をよぎる。
今もああやって、話しかけてくれるけれど。
罪滅ぼしのように感じてしまう。
それもまた、切ない。
いっそ嫌いになれたら、と思うのに。
恨みきれないことも、苦しくて。



