71歳の恋愛小説家

それから税理士にそれぞれの場所の相続税を教えてもらい、一番高い不動産の相続税に合わせて現金の相続額を決めた。

長男は土地が一番広い三階建てのアパート、長女は駐車場、次男はメゾネット五棟の賃貸をそれぞれ決めたようだ。

税理士は駐車場にしてある所が後々には一番いい物件になるでしょうねと言っていた流石しっかり者の長女だ。

先の事を見据えていたのか、一番面倒がないと思ったのかは分からないが、一番最初に駐車場がいいと言ったそうだ。

おっとり型の長男は、長く迷っていたが、土地の広さで決めたらしい。

さっぱりしている次男は頂けるだけでありがたい。

どこでも俺は親父に感謝すると言ったらしい。

三人三様喧嘩もなく決めたようだ。

加奈子が死んだときはそれぞれの不動産の加奈子の分を相続することになる。

本当に相続でもめることがなくて良かった。

相続でもめるのは愚の骨頂だ。

それ位なら何も残さない方がいい位だといつも思っていたのだ。

気に病んでいた事項でもあったので、これですっきりした。

五人の孫たちにも夫の残した財産から二百万ずつ渡すことにした。

おじいちゃんからの贈り物という風にとって欲しかったからなのだが、そういう事を理解したのは長女の二人の子供達と長男の娘だけだろう。

次男の子供達はまだ小さくて意味も分からないだろうが、次男はこれはきちんと貯金しておいて大きくなったらじいちゃんの事を言って聞かせると言ってくれたのは嬉しかった。

とにかく子供達の事は片付いたので、加奈子は自分の人生をリセットする為に今後の生活をどうするか、考えなくてはいけなかった。

家は中庭を挟んで工場に行けるようになっている。

四十年前にここに居を構えた時は、近所にほとんど家はなかったのを記憶している。

その後十年で住宅街となり、電車が通って便利になりこの辺の土地の価値も随分と上がった。

駅からは近いが、スーパーや医者は歩いて行ける所にはないので車は必要なのだ。

加奈子はいつも自分で車を運転しているのだが、免許の返納も視野に入れて考えなくてはいけない年齢だ。

自宅と工場は加奈子が相続したが、妻と言う事で相続税は発生しなかった。