71歳の恋愛小説家

母親はその後、銀行と不動産屋と建築会社に電話して話を聞く段取りをつけた。

とにかく動きが速い。

裕子は自分の母親ながら七十一歳なのに、自分の為に精力的に動こうとする母親に感謝しかなかった。

そしてそんな人脈を持っている母親を尊敬もした。

もっと早く相談に来ればよかった。こんなにボロボロになる前に…

そして、母に言われて近所の病院に怪我の診断書を取りに行った。

ちゃんとDVを受けていると言ったうえで、医者に診てもらえと母に言われていた。

他の部分も痣になって残っている部分に関しても、できたら診断書を貰ったほうが良いと母にアドバイスされた。

母がこんなことを経験したはずはないのによく知っている事にびっくりしたが、確かに何か明確な証拠があるのが良いのだと裕子はそう思った。

病院ではDVだと言うと、写真も撮ってくれて裁判になった時に医者の証明がいる時はいつでも出頭して話をすると言ってくれた。

とても詳しい写真付きの診断書を書いてくれた。

今日殴られたものだけじゃなく古い物も詳しく日付と状況を聞かれた。

肋骨にひびが入っている部分があり何も処置はできないが、なるべく動かさないように運動も控えて安静にするようにと言われた。

肋骨は少し前から時々痛むので、心配はしていたが母はそれを聞いてまた烈火のごとく怒った。

その医者の名刺も貰って来た。

病院から帰ると、税理士に紹介してもらった弁護士に明日会う約束まで取り付けてくれていた。

裕子はもう大船に乗ったつもりで安心できた。

ここ二年半で一番気持ちが穏やかですっきりとした一日になった。

子供達が帰って来たので、母は裕子の口から状況を説明するように言った。

裕子はマスクを外しお腹や背中の痣を見せた。

綾はそれを見て号泣した。

健司は黙って怒りをこらえているようだった。

ソファーに腰かけて俯いているが、握った両手が震えていた。

加奈子は
「今日はとりあえずホテルを取ったから健司はここに泊まりなさいね。布団が一組しかないから、裕子と綾はホテルの方に行ってもらうけどなるべく早く出て行ってもらって、あなた達三人が家に帰れるようにしましょう。明日、弁護士の先生に相談に行ってすぐに動いてもらうようにしたいんだけど、綾と健司はそれでいい?あなたたちの父親でもあるんだから、二人にも判断してもらわないといけないと思う」

「判断って?」と健司が聞いた。

「父親を訴えることになるかもしれないわ、傷害でね。肋骨にひびが入っているし…裁判になれば長くかかるかもしれないから、その覚悟もして欲しいし、父親をかばう気持ちがあるなら今聞かせて欲しい」

「あるわけない。あのくそ親父、母さんにこんな事しやがって、俺が殴ってやりたい」

「気持ちは分かるわ。ばあばも一緒の気持ちよ。でもね、絶対手を出しちゃだめよ。いいわね」

「うん、わかってる」

綾も父親が許せないと言ったので、皆の総意で弁護士の先生に任せることにした。