71歳の恋愛小説家

「ちくしょう、あの野郎許せない。私の娘にこんな酷い事。いつからなの?」

と、涙を流しながら聞く加奈子に、

「うん,二年半位前から、お父さんが死んで、私に駐車場を相続させてくれたでしょう。それで私にお金が入ってくるのが面白くなかったみたい」

そう言うと裕子は大きくため息をついた。

気丈に振る舞っていたが加奈子が思わず抱きしめると、泣き出した。

ずっと心に溜めていた物を吐き出すような悲しくて心が痛む慟哭だった。

きっとこの二年半誰にも言えなくて独り耐えてきたのだろう。

加奈子も、声を出して泣いた。

余りにも、裕子が自分の娘が哀れだった。

しばらく泣いていたが、

「でも、よく二年以上も我慢したわね。そんな事で我慢するなんて裕子らしくないじゃない。反対に殴りつけてやればいいのに」

「そんな訳にはいかないわよ。相手は男よ、暴れだしたら手が付けられないわ」

「子供達は知らないの」

「綾はパパが大好きだし、健司に知れたら、それこそ殴り合いになるわ。いつも二人がいない時にしか手を上げないのよ。それも服で隠れるところを殴ったり蹴ったりするのよ。卑怯者だから…でも今朝は私が一番痛い所をついたから、我慢できず朝家を出る前に思わず顔を殴ってしまったのよ。それもグーでね」

「なんてやつ、それでもう我慢はやめたって事ね。去年の法事の時から、あなた達に違和感を抱いていたのよ。でも何か言ってくるまでは静観しようって思ってたの。間違ったわね。あの場で粉砕してやればよかった」

「ありがとう。さすがお母さん。気持ちいいくらいに手厳しいね」

「あのね、あなたがそこまで我慢しているのも許せないわ。なぜ最初の時に相談に来なかったの。最初を我慢したから相手は、こいつは何も言わないと思ってズルズルいったのよ。その辺は分かってるわよね」

「うん、わかってる。でも、綾が高校受験だったから、私達夫婦の事でごたごたさせたくなかったの。それに私は働いてもいなくて無収入だったし、お父さんの相続で貰った駐車場の九万だけだったから」

「それが間違いの元ね。まあ、痛い思いをしたのはあなただから、今更だしね。腹くくったなら、綾と健司に今日ここに真直ぐ来るように連絡してあの男のいる家には帰さないわよ」

「ありがとう、そう言ってくれて助かる。これから先どうしたらいいか、相談に乗ってくれる?」

「勿論よ」

そう言って加奈子は税理士に離婚に強い弁護士を紹介してほしいと連絡した。